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理論株価の計算式を考える(序論)
山崎 元
ホンネの投資教室
楽天証券経済研究所客員研究員の山崎元の提供レポートです。経済やマーケット、株式投資、資産運用のノウハウと考え方など幅広い情報提供をおこなってまいります。資産運用の参考にお役立てく…

理論株価の計算式を考える(序論)

2012/12/7
・『ダイヤモンドZAi(ザイ) 』の理論株価
・理論的な適正株価の考え方
・新しい理論株価と応用の可能性
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『ダイヤモンドZAi(ザイ) 』の理論株価

多くの読者を持つマネー誌『ダイヤモンドZAi』(ダイヤモンド社刊)には、3カ月毎に上場全銘柄の「理論株価」と「実際の株価と理論株価の乖離率」を計算したデータが載っている。最近の号で理論株価が掲載されていたのは同誌の11月号だが、この時点で日本の上場銘柄の総数は3,542銘柄だ。

理論的な株価の計算方法は、おそらく全投資家が興味を持つテーマだろう。もちろん、筆者も知りたい。

一方、投資家でなくとも大人なら、「理論」と名の付くものを実際に適用しようとするときには、何らかの(通常少なからぬ)簡略化を伴うものだということを知っている。現実に適用できるくらい簡便で且つ同時に妥当な理論的基礎のある方法を編み出すことは、簡単ではない。

『ダイヤモンドZAi』の編集部が偉いのは、理論株価の具体的な計算方法とその根拠を包み隠さず説明している点だ。

対象が、機関投資家向けか、個人投資家向けかを問わず、この種のノウハウを説明する際には何らかの「ブラック・ボックス」を残そうとする輩が多い。しかし、仕組みをきちんと説明しないコミュニケーションは不毛だし、中身の確認のしようがないノウハウを、一時の実績や、「シミュレーション」などと称するデータから信じるのは、金融の世界では「騙される側」に回る第一歩なので気をつけなければならない。

さて、正々堂々と説明されている『ダイヤモンドZAi』の理論株価(以下「ザイ式理論株価」と呼ぶ)計算方法を見てみよう(同誌2012年11月号のp154を参照)。

ザイ式理論株価は、「資産価値」、「利益価値」、「成長価値」の三つの要素の積み上げで説明されている。

式で書くと、ザイ式理論株価=資産価値+利益価値+成長価値、ということになる。

具体的な計算プロセスは以下の通りだ。先ず、資産価値として前期末の「一株株主資本(=Bps)」を採用する。次に、今期の一株利益(=Eps)を業種別に定められた一定の期間分加算する。ここまでで「資産価値」と「利益価値」とが合算される。さらに、前記と今期の売上高を比較した伸び率を利益成長率として、来期以降の利益を成長させて、来期以降の利益の今期利益に対する増分を「成長価値」として加算する。加算する順番や計算方法はこの通りでなくともよいが、考え方は、こう理解すると分かりやすい。

問題は、一株株主資本に何年分の利益の利益価値と成長価値を加算するかだが、これについては、業種ごとに年数が決まっている。

業種によって加算する年数が異なることの説明については「業種ごとに成長率が大きく異なるため、過去のデータを業種別に解析し、最適な将来利益の折り込み年数を設定」と説明されている。

敢えていえば、この年数の決め方に分析者本人にしか分からないブラック・ボックスがあるが、年数は東証の33業種分類全てについて公開されている。たとえば、期間が長いものでは情報通信=10年、短いものでは鉄鋼=4年といった感じだ。業種として、鉄鋼よりも情報通信の方が将来の利益成長が大きいという判断だろう。代表的な業種について幾つか見てみると、建設業=4年、食料品=4年、医薬品=8年、電機=8年、卸売=6年、銀行=6年、電気・ガス=4年といった感じだ。大まかな平均は6年くらいだろう。ちなみに、証券業は6年とされている。

架空の例を一つ計算してみよう。一株株主資本が500円で、今期の一株利益が50円、前期から今期にかけての売上高伸び率が5%の会社があり、この会社が食料品の会社だとすると、ザイ式理論株価は、以下のような計算で約715.5円になる。

500+{50×4}+{(50×1.05-50)+(50×1.05×1.05-50)+(50×1.05×1.05×1.05-50)}=500+200+{2.5+5.125+7.88125}=715.50625

電卓で計算するには少し煩雑だが、表計算ソフトがあれば、誰でも問題なく計算できるだろう。主に業種ごとの将来利益の折り込み年数に関して、「これはちがうのではないか」という意見を持つ人はいるだろうが、具体的に計算できる「株価のめど」があることの価値は大きい。

理論的な適正株価の考え方

さて、ザイ式理論株価の潔い情報開示と簡便性は認めるのだが、文字通り理論的に株価を考えるとなると、幾つか修正したい点が出てくる。

いきなり数式になって恐縮だが、筆者が「まあよし」と考える理論株価のフレームワークをご紹介しよう。

この式の内容を、文章で表すと以下のようになる。

t 時点の適正株価は、『将来のそれぞれの時点の前期末の一株当たり株主資本を、将来予想される一株当たり利益が“株主資本に投資家が要求する利益”を上回る差分』の割引現在価値を無限の将来まで合計した値だ。

この際、投資家が要求する利益率は、同時に将来の利益に対する割引率でもあり、それはリスクフリー金利(rf)とリスクプレミアム(rp)の合計だ。

理論株価を考える上で肝心な点は、たとえば、前期末の株主資本が500円で、リスクフリーレートが2%、株式に対するリスクプレミアムが6%だとすれば、今期の予想一株株利益が500(円)×0.06=40(円)を下回る場合、今期の予想利益は、株価を一株当たり株主資本以上に押し上げる役に立たないばかりか、株価を一株当たり株主資本以下に押し下げる要因として働くということだ。

今期の予想一株利益が20円だとすれば、仮に来期以降予想一株利益が将来の各時点の株主資本に対する要求利益を満たすとしても、現時点での適正株価は、500円よりも(20-40)÷(1+0.06)≒18.87(円)だけ安いことになる。

「予想利益が黒字で来期の株主資本が増えると予想されているのに、現在の株価が一株当たり株主資本を下回るのはおかしい(あるいは「可哀想だ」?)」と思う人がいるかも知れないが、将来の予想利益は、現時点ではあくまでも「予想(期待値)」に過ぎない不確実性を伴った数字なのだから、この評価が妥当なのだ。

この理屈を踏まえると、現在の日本の株式市場にPBR1倍割れの銘柄が多数あることが、喜べはしないとしても、納得できるはずだ。一株当たり株主資本は「解散価値」などと呼ばれることがあるが、実際には、会社を解散することも、解散して帳簿上の価値通りの一株当たり株主資本を株主が手に入れることも簡単ではない。

新しい理論株価と応用の可能性

ザイ式理論株価の簡便法として優れている点は、利益そのものから観測される利益成長率ではなく、より安定的で長期の利益成長率イメージに近い代理変数として売上の成長率を使ったことと、将来利益の適正株価への貢献を「無限まで足し込む」のではなく、数年分で打ち切ることで割り切っている点だろう。

率直に言って「遠い将来の利益予想」などというものは、限りなく単なる空想に近いものだし、その空想は、現時点で見えている対象銘柄の企業像から大雑把にイメージされたものに過ぎない。

機関投資家が、より手の込んだ株価の推計を行う場合、たとえば「3ステージの配当割引モデル(DDM)」を用いる。このモデルでは、(第1期)ある程度予想できる直近の数年の成長率が、(第2期)一定の調整期間を経て、(第3期)長期均衡の(平凡な)成長率に収斂する、という三つの時期に異なる成長率の仮定を置くことで適正株価を推計する。

これは、一見複雑で厳密そうに見えるが(ビジネス上は「有り難そうに見える!」)、当面何年かの成長率を大まかに予想して「普通の成長率の株価」に加減を加えているに過ぎない。

また、幸いなことに、遠い将来の時点の予想利益は複利で割り引くと、現在価値としてはかなり小さなものになる。たとえば、割引率を8%とすると、10年先のキャッシュフローの現在価値は将来時点の名目値の0.46倍だ。同様に、20年先は0.21倍、30年先だと0.10倍にすぎない。

ザイ式理論株価を修正するとすれば、第一のポイントは、予想利益と株主資本が要求する利益との「差」を一株株主資本に足し込む形で適正株価を計算するようにすることだろう。

但し、この際、株主資本に対する要求利益率を銘柄によって変える必要があるかどうかが問題になる可能性がある。いわゆるポートフォリオ理論をふまえたバリュエーションの考え方では、たとえば銘柄のβ値に応じてリスクプレミアムの水準が変化する。この点は、あまり厳密にしようとし過ぎると簡便法の良さが失われてしまう可能性があるので、実用性とのバランスを取る必要があり、仮に改訂版の理論株価式を作るとすれば工夫の要る点かも知れない。

当面しばらくの利益成長率イメージの代理変数として売上高伸び率を使う方法は簡便法としては「いいセンス」なのではないかと筆者は考えているが、もちろん、これをどの程度反映させるか、あるいは他に有力な変数はないか、ということも検討の俎上に乗るかも知れない。

これらの「よい加減」を見つけることができれば、業種ごとに異なる「利益価値」と「成長価値」の反映期間を統一できる可能性が出てくるかも知れない。

また、大きな拡張の可能性の一つとして、「理論株価」のアプローチを外国株にも拡げることがあげられよう。

国が異なると通貨、金利、経済成長率、さらにリスクの大きさ、などが異なるが、前3者の差異は、実質金利ベースの裁定を考えると、案外簡単に吸収できるかも知れない。

先の理論株価の式の右辺の後の項(Σの中身)を見ると、分子に適用される成長率にも割引率として分母に適用される割引率にもリスクフリーレートが出てくるので、実質金利が均衡すれば各国のインフレ率の差を吸収することが出来るかも知れない。この場合、長期的には、為替レートの変動の要素も相当適度吸収できる可能性がある。

どの国の、どの市場の、どの銘柄を分析対象とするとかについては、利用可能なデータとの兼ね合いも考えなければならないが、日本株の理論株価の新たな計算方法を探ると共に、外国株に関しても(出来れば日本株も包含する形で)理論株価の計算方法を考えてみたい。近い将来に、何らかの具体案(「叩き台」という位のレベルだろうが)をお知らせできることを願っている。

本件にご興味のある読者は、『ダイヤモンドZAi』(理論株価が載っている最新のものは11月号)を見て、ご自分ならどうするか、じっくり考えてみて欲しい。

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