首相辞任とジャクソンホールの初期反応に対する修正に注目

 従って、安倍首相の辞任に対する相場の初期反応は今のところ限定的です。また、初期反応といえば、先週開催されたジャクソンホール会議(カンザスシティ連銀が主催する経済シンポジウム)についても押さえておく必要があります。

 パウエル米FRB(米連邦準備制度理事会)議長が行った基調講演では、インフレ率が2%を上回ることを一時的に容認する「平均インフレ目標」が打ち出され、これを受けた米国の金融市場は、株高や長期金利の上昇、ドル高/円安に金価格の上昇という、全体的にかなり前向きな初期反応を見せています。

 そのため、今週の株式市場は、安倍首相辞任とジャクソンホールの2つの初期反応に対して修正や見直しが行われるかが焦点になります。

 前者の安倍首相辞任については、後継者候補の絞り込みや決定までの経緯がまだ確定していないこと、そして、これまでの長期安定政権が終焉(しゅうえん)を迎えたことによる海外投資家の日本株に対する評価が低下したり、日銀との連携などに対する懸念については、新リーダーの政策スタンス次第になります。もともと政治的材料は「蓋を開けてみなければわからない」要素が強く、観測報道の内容で株価が短期的に上下すると思われますが、市場が中期的な視点で織り込みにいくにはまだ難しい状況と考えられます。

 また、後者の米FRBの金融政策の見直しについては、株式市場はゼロ金利政策の長期継続観測で上昇する一方、債券市場では短期金利の低下と長期金利の上昇観測によって、調達コストの低下と運用成果への期待が高まっています。史上最高値を更新している米S&P500やNASDAQの上昇基調が今週も継続すれば日本株も引っ張られる格好で落ち着きを取り戻すことができそうです。

 ただし、パウエルFRB議長の講演では、物価上昇までの道のりや経済持ち直しのスケジュール感と実現の見通し、具体的な政策手段についての言及はなく、先ほどの市場の反応はどちらかというとアナウンス効果によるものが大きい面があり、今後それぞれの市場で動きが異なってくることも考えられます。実際に、ドル買いとなっていた為替市場も、その後はドル売りへと転換し、1ドル=107円近くまで円安が進んだあと、105円前半までの円高となっています。

 ちなみに、下の図3は週足の日経平均とドル/円の推移ですが、為替市場が1ドル=105円あたりのとき、株式市場が低迷していることが多くなっており、意識されやすい水準と思われます。さらに円高が進んだ場合には注意が必要かもしれません。

■(図3)日経平均と米ドル/日本円のチャート(週足)(2020年8月28日取引終了時点)

出所:MARKETSPEEDⅡを元に筆者作成