残念ながら、「ウィズ・コロナ」

 本稿は2020年の8月初旬に書いている。「ウィズ・コロナ」がいいのか、「アフター・コロナ」がいいのか、タイトルに迷ったのだが、残念ながら状況に合わせていずれかを選ぶなら「ウィズ・コロナ」が適切のようだ。

 感染者数が全国で増加傾向にあって、新型コロナウイルスの感染症は収束がまだ見えない。海外でも感染者の拡大に歯止めが掛かった感じはない。われわれは、この感染症の影響としばらくの間付き合わねばならないと考えることが現実的だろう。

 3月から4月にかけて感染が拡大して政府が緊急事態宣言を出した頃のような「未知の恐ろしい感染症」というイメージではなく、高齢・基礎疾患ありの高リスク・グループに属す人でなければ致死率は高くないが、感染力が強く、症状が出ると苦しい、「厄介でかかりたくない病気」であることは間違いないので、「経済活動との両立を図る」という建前の下でもろもろが動くとしても、生活・経済への大きな影響は避けがたい。

 本稿では、主に個人にとっての経済と金融面での生活とに対するコロナの影響と、特に投資をどうしたらいいかについてまとめてみた。

「不景気」vs「経済政策」

 コロナの経済に対する主な影響は、需要の減少による「不景気」だ。旅行・観光など人の移動を伴う活動、飲食、スポーツ観戦、その他、新型コロナで制約を受ける経済活動は少なくない。

 こうした制約は、製造業の部品調達などのサプライチェーンにも影響しているが、影響は「需要の抑制」が優勢のようだ。

 どちらもGDP(国内総生産)にとっては抑制要因になるが、需要の減少の方が影響が大きいと物価に対してはデフレ的に影響すると考えられる。

 今や、細かな経済予測に意味はないが、現時点で考えられる2020年のGDPに対する影響は、日本と米国では▲5%程度、欧州では▲8%前後、中南米、アフリカでもマイナスで、どうやら中国だけがプラスの成長を確保しそうだといった状況がIMF(国際通貨基金)や世界銀行などの見通しだ。

 先般の日本銀行の金融政策委員会での議論などによると、この落ち込みの影響は、来年、再来年まで残り、「ビフォー・コロナ」の水準を回復するまでには相当の時間がかかると予想される。

 ウィズ・コロナ時代の実体経済の大勢は「不景気」であり、物価に対しても下押し圧力が掛かりやすい。ただし、物価は金融・財政政策の影響を受けて「お金の価値」が下落する可能性はあるので、「ウィズ・コロナ=デフレ」は自然ではあるが、絶対的に強固な関係ではない。

 他方、「景気が悪いことがこれだけはっきりしているのに、株価がこんなに戻っているのはなぜだ?」という疑問をお持ちの向きが少なくなかろう。

 株価が急激に戻った理由は大きく二つある。

 一つには、世界各国の経済対策が金融政策・財政政策共にリーマン・ショック時を超える規模と速さであることだ。特に米国のFRB(米連邦準備制度理事会)が信用リスクのある社債まで買い取りの対象とするなど、量的な緩和のみならず、信用リスク面での緩和にまで踏み込んだことの効果は大きかった。

 また、単に金融を量的に緩和する(国債を買ってベースマネーを増やす)だけでは、民間の信用創造につながらないが、財政的に資金需要を作り出したことの効果が大きい。

 株価が戻ったもう一つの理由は、新型コロナが「正体不明の恐怖」から「ある程度は分かる厄介な病」に認知上変化したからだろう。

 人には、正体不明のものをデータから常識的に想像される以上に怖がる性質がある。感染者数や死亡者数が増えていても、正体がほとんど分からない時ほどにはコロナが恐くない。株式投資家にあっては、心理的な恐怖によって加算されていたリスク・プレミアムが剥落したのだろう(理論的にはリスク・プレミアムの縮小は株価の上昇を意味する)。

 ウィズ・コロナ時代の投資の最大のポイントは、「不景気」と「経済対策」の綱引き状態として市場を理解することだ。