OPECプラスを苦しめ続けた、“あの”米シェールの、数カ月以内の回復は困難

 かつて、米国のシェールオイルは、生産量が急増し、2017年1月から行われたOPECプラス(石油輸出国機構=OPECと、非加盟国で構成される組織)の協調減産の効果を薄め続けました。当時、原油関連の商品に投資をしていた投資家たちの一部から、せっかくOPECプラスが減産をして原油相場に上昇要因があるのに、その効果を米シェールの大増産がふいにしている、との声が聞かれました。

 原油相場の上昇を期待する投資家にとって、米シェールオイルは、目の上のたんこぶのような存在だったのです。その、米シェールが今、窮地に立たされていると言っても過言ではない、状況に追いやられています。

 EIA(米エネルギー省)は、毎月おおむね3週目の月曜日、米国のシェール主要地区におけるさまざまなデータを公表しています。これらのデータの中に、仕上げ済井戸数と、新規1油井あたりの原油生産量、というデータがあります。

 仕上げ済井戸数とは、掘削が終わった井戸に対し、原油生産を開始するための最終的な作業が終わった井戸の数のことです。具体的には、高圧で水と砂と少量の化学物質を、掘削をした井戸に注入する作業です。

 この作業は、探索・開発・生産のシェール生産までの工程の中で、開発の後半部分にあたり、さまざまな作業の中で最もコストがかかる作業と言われています。このため、この作業を行うことは、かけたコストを回収するために、原油の生産を開始することを前提としていると言えます。

 この仕上げ済井戸数に、新規1油井あたりの原油生産量を乗じると、シェール主要地区の新規油井からの原油生産量の推計値を導くことができます。以下が、同地区の新規油井からの原油生産量の推計値です。

図:米シェール主要地区の新規油井からの原油生産量(筆者推定)とWTI原油価格の推移

出所:EIAのデータをもとに筆者作成

 2020年3月を機に、急減していることがわかります。同月時点で日量88万バレルだったのが、6月時点で日量22万バレルまで減少しました。

 過去の推移から、この新規油井からの原油生産量の推定値は、原油相場と連動する傾向があります。しかし、足元、原油相場は4月を底に反発していますが、同地区の新規油井からの原油生産量の推定値は、まだ増加していません。

 2月から3月にかけて発生した“新型コロナショック”のダメージが尾を引いていると、考えられます。

 OPECプラスの減産の効果を相殺し続けた“あの”米シェールが困難な状況にあることを、市場は“大きな下落要因の弱体化”、とくに原油相場が上昇することを期待する関連商品へ投資をしている投資家においては、好意的に、受け止めている可能性があります。

 このような好意的な受け止めもまた、原油市場の下落要因を相殺する要素の一つと見られます。