どの貴金属に投資をすべきか迷ったら、「自家製」貴金属ファンドを作ってみるのも一計

 金を含む、銀、プラチナ、パラジウムといった貴金属銘柄のこのおよそ1年間の値動きを振り返ってみます。

 2019年7月、それまで金融政策を引き締める方向で進んできた米国において、引締めの逆となる緩和的な措置の1つ“利下げ”(目標金利の引き下げ)が実施されました。

 これを機に、“代替通貨”の側面から上昇圧力がかかり、金価格が上昇し始めました。2020年2月下旬から3月中旬に発生した、世界的に現金化が進んだことをきっかけとした“新型コロナ・ショック”で一時的に売られたことを除けば、金はほぼ一貫して、このおよそ1年間、上昇し続けています。

図:金、銀、プラチナ、パラジウムの値動き(ドル建てスポット期近、日足)
(2019年8月1日を100として比較)

出所:ブルームバーグより筆者作成

 コロナ・ショックの際、銀、プラチナ、パラジウムは、金よりも大きく下落しました。新型コロナウイルスのパンデミック化(世界的な流行)が宣言されたことで、世界的な景気悪化が強く懸念され、産業用に用いられる貴金属の消費が減少する懸念が強まったことが原因とみられます。

 先述のとおり、4つの貴金属、それぞれの産業用の用途の割合は異なります。コロナ・ショックのような世界全体の景気を大きく悪化させる出来事が起きた場合、景気悪化に伴い、産業用の消費が減少する懸念が強まり、産業用の用途の割合が大きい貴金属は、価格が下落しやすくなります。急増・急減など、産業用の消費が急激に変化する(しそうな)時ほど、金以外の貴金属は景気の動向に影響を受けやすくなります。

 一方、産業用消費の急増・急減が予期されない状況においては、金(ゴールド)価格の上下が、他の3つの価格を上下させる要因になる場合もあります。これら4つは“貴金属”という同じグループであり、最も売買が活発な金の値動きに他の3つが追随する場合があるためです。

 4つの貴金属価格の動向は、金価格そのもの、産業用消費を左右する景気動向に影響を受けると言えるわけですが、仮に、先述の通り、“5本の矢”によって、今後金価格が上昇すると考えれば、他の3つの貴金属も、価格が上昇する可能性が生じます。この時、どの貴金属を投資対象に選べばよいのでしょうか?

 筆者は、以下のような特徴を活かし、4つの貴金属に資金を配分する売買戦略も一計だと、考えています。

金・・・“5本の矢”の考えに基づき、価格上昇を期待。

銀・・・金に追随して上昇する期待。加えて、新型コロナ感染拡大がもたらした社会変革により、これまで以上に推進する可能性が出てきたESG(環境・社会・企業統治)の考え方と一致する、太陽光パネル向けに使われる銀の消費が拡大する期待が浮上。独自の価格上昇期待により、上値を伸ばす可能性あり。

プラチナ・・・2015年に発覚した独自動車大手フォルクスワーゲンのスキャンダル以降、ディーゼル車の排ガス浄化装置向け消費が伸び悩んでおり、長期的に上値が重い。しかし、足元、金価格に連動するように反発している。長期的にまだ安い水準にありながら、価格反発材料が出ているため、今後の本格的な反発に期待。

パラジウム・・・もともと変動率が高い点に注意が必要。金の上昇に追随し、大きく価格が動くことに期待。

 以下は、証券コードが、1540から1543まで、連番になっている貴金属のETF(上場投資信託)を使った「自家製」貴金属ファンドの例です。

※あくまで売買の一例です。実際の売買は、コストや注意事項を確認いただいた上で、ご自身の責任において行ってください。

図:「自家製」貴金属ファンドの例

出所:筆者作成

 この「自家製」貴金属ファンドの例は、NISA(少額投資非課税制度)枠の半分程度のおよそ60万円で始められます。このおよそ60万円の内訳は、金47%、銀19%、プラチナ22%、パラジウム12%です。

 金をメイン(半分弱)に、太陽光パネル向けの消費拡大期待で銀、長期的にまだ安い水準にあるプラチナにそれぞれ20%程度、そして残りを、金が上昇しそれと同じ方向に大きく振れてくれることを期待してパラジウムに、配分しました。

 もっと投資資金を少額にしたい人は、パラジウムを除外したり、純金積み立てをメインに取引をしている人は、ETF(上場投資信託)ではなく、純金積み立ての口座で金、銀、プラチナの3つでプランを考えたりするなども有効かもしれません。

 本日から大阪取引所ではじまった商品先物でも、これら4つの売買が可能です。30倍程度のレバレッジがかかった取引であるため、資金に余裕を持たせ、かつ、同じ建玉を保有し続ける上で、期限の制約があるため、現実的には、短期的な売買を前提に取引することになると思われます。また、銘柄によっては売買が活発ではなく、予期せぬ価格で取引が成立する可能性がある点に、注意が必要です。

 いずれにせよこの「自家製」貴金属ファンドは、そもそも金価格が上昇することを前提としているため、この大前提が崩れそうになった場合(金相場が大きく下落しそうになった場合)は、一度すべて取引を終了することを検討する必要があります。

 金相場に作用していると見られる“5本の矢”が維持されているかどうか、つまり、束がばらけたり、折れたりしていないかを、日々、目を配る必要があります。

 今回は、足元の金相場の状況と、今後の展望、そして各貴金属の特徴に注目した具体的な貴金属の売買戦略を考えてみました。皆さまの貴金属取引の参考になれば、幸いです。

[参考]貴金属関連の具体的な投資商品

純金積立

金(プラチナ、銀もあり)

国内ETF/ETN

1326 SPDRゴールド・シェア
1328 金価格連動型上場投資信託
1540 純金上場信託(現物国内保管型)
2036 NEXT NOTES 日経・TOCOM金ダブル・ブルETN
2037 NEXT NOTES 日経・TOCOM金ベアETN

海外ETF

GLDM SPDRゴールド・ミニシェアーズ・トラスト
IAU iシェアーズ・ゴールド・トラスト
GDX ヴァンエック・ベクトル・金鉱株ETF

投資信託

ステートストリート・ゴールドファンド(為替ヘッジあり)
ピクテ・ゴールド(為替ヘッジあり)
ピクテ・ゴールド(為替ヘッジなし)
三菱UFJ純金ファンド

外国株

ABX Barrick Gold:バリック・ゴールド
AU AngloGold:アングロゴールド・アシャンティ
AEM Agnico Eagle Mines:アグニコ・イーグル・マインズ
FNV フランコ・ネバダ
GFI Gold Fields:ゴールド・フィールズ

国内商品先物

金、ミニ金、ゴールド100(プラチナ、銀、パラジウムもあり)

海外商品先物

金、ミニ金、マイクロ金(銀、ミニ銀もあり)