海外の金先物価格、国内の金小売価格は、過去最高値更新

 今、国内外の金市場が沸いています。国際的な金価格の指標の1つであるドル建ての金先物価格※は、日本時間7月27日(月)午前時点で、1トロイオンスあたり1,944ドル近辺で推移しています。2011年9月の1923.7ドルを超え、過去最高値を更新しました。

※ドル建ての金先物価格、ここではCME(シカゴマーカンタイル取引所)の価格を参照。

図:ドル建て金先物価格(CME)月間高値(中心限月) 単位:ドル/トロイオンス

出所:CME(シカゴマーカンタイル取引所)のデータをもとに筆者作成

 また、ドル建て金価格に追随する傾向がある国内の金現物価格も、騰勢を強めています。大手地金商の小売価格は、1グラムあたり6,500円(税抜)を超え、およそ40年半前の水準を超える、過去最高値に達したとみられます。

図:国内大手地金商 金現物小売価格(税抜) 月間高値 単位:円/グラム

出所:国内大手地金商のデータをもとに筆者作成

 ドル建て先物価格、国内金現物小売価格は、ともに、記録的な高値水準にあります。一体なぜ、このような騰勢を強める展開になっているのでしょうか。

 米国の実質金利がマイナス、ドルの他の主要国通貨に対する強さを示すドル指数が低水準、今週のFOMC(連邦公開市場委員会)で引き続き金融緩和が継続される見通し、などドルの代わりの金、つまり代替通貨の側面から物色されていると報じられています。

 この件に加え“コロナ拡大による不安”、“米中関係の悪化”、などの材料1つ1つを、線で結んでみると、現在の金市場を取り巻く環境の全体像が見えてきます。

矢は一本一本が太さを増し、束になる。金価格は“5本の矢”に支えられ、2000ドルへ!?

 筆者はこれまで、何度も、金相場の変動要因は1つではない、少なくとも5つあり、これらが重なったり、相殺されたりして、価格が決まっていると申し上げてきました。“今は有事だから金価格が上昇している”、などと、高値水準で推移する金相場を、たった1つの材料で説明することはできません。

 例えば、“米中関係の悪化”という材料があります。この材料は、世界に垂れ込める不安を増幅させています。新型コロナの影響で負った大きなダメージから、一刻も早く世界経済を回復させなくてはならないわけですが、米中関係が悪化していることで、回復が遠のいてしまう不安が強まっています。このような不安は、投資家に資金の逃避先を模索させるきっかけになります。

 “米中関係の悪化”は、不安を強めるだけではありません。世界経済の回復が遅れるのではないか、との見方は、思惑を織り込む傾向がある株式市場に不安感を与え、同市場が不安定化する懸念を生みます。株式市場が不安定化することに、備えが必要になります。

 また、“米中関係の悪化”により、世界経済の回復が遅れる懸念が生じれば、特に米国で行われている緩和的な金融政策をさらに強めるよう、催促するムードが生じます。金利引き下げや市中からの資産買い取りなどの政策は、政策を実施する国の通貨(米ドル)の価値が希薄化する懸念を強めます。このため、ドルの代わりになり得る通貨を物色するムードが生じます。

 “米中関係の悪化”というテーマは、投資家に、資金の逃避先を模索させたり、株式市場が不安定化するのに備えさせたり、ドルの代わりとなり得る通貨を物色させたりする動機になります。

 つまり、“米中関係の悪化”は、資金の逃避先として金を物色させる“有事のムード”、株式の代わりに金を保有する“代替資産”、ドルの代わりに金を保有する“代替通貨”、少なくとも3つの側面から、金相場をサポートする要因になっていると考えられます。単に、米中関係が悪化し、不安だから金が物色されているだけではないのです

 “米中関係の悪化”は1つの例にすぎません。新型コロナウイルスの感染拡大について、中国を除く新興国で第1波が、先進国で第2波が同時に起きていること、世界各地で人種差別のデモが起きていることなども、世界経済の回復を遅らせる要因になることから、米中関係の悪化と同様に、3つの側面から金相場をサポートしていると言えます。

 また、このような、金相場を複数の側面でサポートする材料をもたらす大きな懸念が複数、同時に発生している状況が、長引けば長引くほど、国によっては財政が厳しくなるケースが想定され、もともと中長期的な金の保有者として知られる“中央銀行”が、長期保有を前提に比較的大きな規模で金の保有残高をさらに増やす可能性があります。

 そして、主要国の中で、第1波を乗り越えることに成功し、現在、新型コロナを封じ込めているとみられる中国で、宝飾や地金・コインなど、個人の金需要が回復する期待が強まり、“中国の宝飾需要”というテーマから金相場をサポートする期待が生じます。

 以下のとおり、少なくとも、金相場には5つのテーマが存在し、それぞれが金相場に上昇要因として作用していると考えられます。

図:足元の金相場を支える5本の矢

出所:筆者作成

 世界情勢が明確な回復基調にならないため、“5本の矢”が、束のまま(上昇要因という同じ方向を向いたまま)、時間の経過とともにそれぞれ太くなり(影響力が強まり)、金相場を支えていると言えるでしょう。“不安だから金が買われている”だけではないのです。

 ドル建て金価格が1トロイオンス2,000ドルという予測が報じられていますが、5本の矢が金相場をサポートし続ける環境が続けば、2,000ドル到達も十分あり得ると、筆者は考えています。

 かつて主流だった、有事だから金価格が上昇する、あるいは、株が下がったから金価格が上昇する、あるいは、ドルが下がったから金価格が上昇する、という“材料を点で見る”考え方ではなく、そもそも材料は1つではなく複数が同時に作用している、“材料の多層化”という現代版の金相場の考え方を用いることで、今後、金価格がさらに上昇する、というシナリオを描くことができます。

銀、プラチナ、パラジウムの上昇は、主力の金高と、独自材料によるもの

 金価格が上昇していますが、他の貴金属はどのように動いているのでしょうか?

 以下のグラフは、先週1週間の、4つのジャンル(株価指数、通貨、コモディティ、暗号資産)を横断した、合計24の銘柄の騰落率を示しています。上昇率の上位3位を、貴金属(銀、プラチナ、パラジウム)が独占しました。金(ゴールド)も上昇し、上昇率6位でした。

図:ジャンルを横断した合計24銘柄の騰落率(7月17日と24日を比較)

出所:楽天証券のマーケットスピードⅡなどのデータより楽天証券作成
※パラジウムは楽天証券のマーケットスピードCX内「海外市場」の、中心限月のデータを参照。
※ビットコインは楽天ウォレットのビットコイン価格を参照。日本時間の前々週土曜日午前6時と前週土曜日午前6時を比較
※ドル指数はICEのデータを参照
※騰落率は前々週金曜日の終値と前週金曜日の終値より算出。(前週金曜日終値-前々週金曜日終値)/前々週金曜日の終値

 宝飾向けが消費のメインである金(ゴールド)よりも、産業用の用途の割合が大きい銀、プラチナ、パラジウムの上昇率が高かったのは、株価が上昇し、消費回復期待が生じて、産業用貴金属の消費が増加する期待が高まったため、と考えたくなりますが、上図のとおり、主要国の株価指数は下落しました。

 このため、先週の値動きにおいては、景気回復期待が産業用貴金属の消費を増加させる観測を浮上させ、それにより産業用の用途の割合が高い貴金属の価格が上昇した、というシナリオを描くことには、無理があります。

 株価が下落しても、産業用に主に用いられる貴金属の価格が上昇したのは、貴金属銘柄の主力である金の上昇が、これら3つの貴金属の価格の底上げ要因となったこと、そしてこれら3つの貴金属がもともと持っている、金よりも売買の規模が小さく、多少の材料でも、価格のブレが大きくなりやすいなどの、3つの貴金属それぞれの特徴がさらなる上昇分を作ったと、考えられます。

図:各貴金属の消費内訳(2018年)

出所:トムソンロイターGFMSのデータをもとに、筆者作成

どの貴金属に投資をすべきか迷ったら、「自家製」貴金属ファンドを作ってみるのも一計

 金を含む、銀、プラチナ、パラジウムといった貴金属銘柄のこのおよそ1年間の値動きを振り返ってみます。

 2019年7月、それまで金融政策を引き締める方向で進んできた米国において、引締めの逆となる緩和的な措置の1つ“利下げ”(目標金利の引き下げ)が実施されました。

 これを機に、“代替通貨”の側面から上昇圧力がかかり、金価格が上昇し始めました。2020年2月下旬から3月中旬に発生した、世界的に現金化が進んだことをきっかけとした“新型コロナ・ショック”で一時的に売られたことを除けば、金はほぼ一貫して、このおよそ1年間、上昇し続けています。

図:金、銀、プラチナ、パラジウムの値動き(ドル建てスポット期近、日足)
(2019年8月1日を100として比較)

出所:ブルームバーグより筆者作成

 コロナ・ショックの際、銀、プラチナ、パラジウムは、金よりも大きく下落しました。新型コロナウイルスのパンデミック化(世界的な流行)が宣言されたことで、世界的な景気悪化が強く懸念され、産業用に用いられる貴金属の消費が減少する懸念が強まったことが原因とみられます。

 先述のとおり、4つの貴金属、それぞれの産業用の用途の割合は異なります。コロナ・ショックのような世界全体の景気を大きく悪化させる出来事が起きた場合、景気悪化に伴い、産業用の消費が減少する懸念が強まり、産業用の用途の割合が大きい貴金属は、価格が下落しやすくなります。急増・急減など、産業用の消費が急激に変化する(しそうな)時ほど、金以外の貴金属は景気の動向に影響を受けやすくなります。

 一方、産業用消費の急増・急減が予期されない状況においては、金(ゴールド)価格の上下が、他の3つの価格を上下させる要因になる場合もあります。これら4つは“貴金属”という同じグループであり、最も売買が活発な金の値動きに他の3つが追随する場合があるためです。

 4つの貴金属価格の動向は、金価格そのもの、産業用消費を左右する景気動向に影響を受けると言えるわけですが、仮に、先述の通り、“5本の矢”によって、今後金価格が上昇すると考えれば、他の3つの貴金属も、価格が上昇する可能性が生じます。この時、どの貴金属を投資対象に選べばよいのでしょうか?

 筆者は、以下のような特徴を活かし、4つの貴金属に資金を配分する売買戦略も一計だと、考えています。

金・・・“5本の矢”の考えに基づき、価格上昇を期待。

銀・・・金に追随して上昇する期待。加えて、新型コロナ感染拡大がもたらした社会変革により、これまで以上に推進する可能性が出てきたESG(環境・社会・企業統治)の考え方と一致する、太陽光パネル向けに使われる銀の消費が拡大する期待が浮上。独自の価格上昇期待により、上値を伸ばす可能性あり。

プラチナ・・・2015年に発覚した独自動車大手フォルクスワーゲンのスキャンダル以降、ディーゼル車の排ガス浄化装置向け消費が伸び悩んでおり、長期的に上値が重い。しかし、足元、金価格に連動するように反発している。長期的にまだ安い水準にありながら、価格反発材料が出ているため、今後の本格的な反発に期待。

パラジウム・・・もともと変動率が高い点に注意が必要。金の上昇に追随し、大きく価格が動くことに期待。

 以下は、証券コードが、1540から1543まで、連番になっている貴金属のETF(上場投資信託)を使った「自家製」貴金属ファンドの例です。

※あくまで売買の一例です。実際の売買は、コストや注意事項を確認いただいた上で、ご自身の責任において行ってください。

図:「自家製」貴金属ファンドの例

出所:筆者作成

 この「自家製」貴金属ファンドの例は、NISA(少額投資非課税制度)枠の半分程度のおよそ60万円で始められます。このおよそ60万円の内訳は、金47%、銀19%、プラチナ22%、パラジウム12%です。

 金をメイン(半分弱)に、太陽光パネル向けの消費拡大期待で銀、長期的にまだ安い水準にあるプラチナにそれぞれ20%程度、そして残りを、金が上昇しそれと同じ方向に大きく振れてくれることを期待してパラジウムに、配分しました。

 もっと投資資金を少額にしたい人は、パラジウムを除外したり、純金積み立てをメインに取引をしている人は、ETF(上場投資信託)ではなく、純金積み立ての口座で金、銀、プラチナの3つでプランを考えたりするなども有効かもしれません。

 本日から大阪取引所ではじまった商品先物でも、これら4つの売買が可能です。30倍程度のレバレッジがかかった取引であるため、資金に余裕を持たせ、かつ、同じ建玉を保有し続ける上で、期限の制約があるため、現実的には、短期的な売買を前提に取引することになると思われます。また、銘柄によっては売買が活発ではなく、予期せぬ価格で取引が成立する可能性がある点に、注意が必要です。

 いずれにせよこの「自家製」貴金属ファンドは、そもそも金価格が上昇することを前提としているため、この大前提が崩れそうになった場合(金相場が大きく下落しそうになった場合)は、一度すべて取引を終了することを検討する必要があります。

 金相場に作用していると見られる“5本の矢”が維持されているかどうか、つまり、束がばらけたり、折れたりしていないかを、日々、目を配る必要があります。

 今回は、足元の金相場の状況と、今後の展望、そして各貴金属の特徴に注目した具体的な貴金属の売買戦略を考えてみました。皆さまの貴金属取引の参考になれば、幸いです。

[参考]貴金属関連の具体的な投資商品

純金積立

金(プラチナ、銀もあり)

国内ETF/ETN

1326 SPDRゴールド・シェア
1328 金価格連動型上場投資信託
1540 純金上場信託(現物国内保管型)
2036 NEXT NOTES 日経・TOCOM金ダブル・ブルETN
2037 NEXT NOTES 日経・TOCOM金ベアETN

海外ETF

GLDM SPDRゴールド・ミニシェアーズ・トラスト
IAU iシェアーズ・ゴールド・トラスト
GDX ヴァンエック・ベクトル・金鉱株ETF

投資信託

ステートストリート・ゴールドファンド(為替ヘッジあり)
ピクテ・ゴールド(為替ヘッジあり)
ピクテ・ゴールド(為替ヘッジなし)
三菱UFJ純金ファンド

外国株

ABX Barrick Gold:バリック・ゴールド
AU AngloGold:アングロゴールド・アシャンティ
AEM Agnico Eagle Mines:アグニコ・イーグル・マインズ
FNV フランコ・ネバダ
GFI Gold Fields:ゴールド・フィールズ

国内商品先物

金、ミニ金、ゴールド100(プラチナ、銀、パラジウムもあり)

海外商品先物

金、ミニ金、マイクロ金(銀、ミニ銀もあり)