ファンドマネージャー時代に実際にやってきたシンプルな売買のルール

 今回、ご紹介するのは、私が運用を担当していたある公的年金ファンドで実際にやっていたアセットアロケーション(資産配分)のリバランス(変更)ルールです。

 まず、そのファンドが、どこで日本株を売り、どこで日本株を買ったか、見てください。

日経平均月足:2005年1月~2013年12月

 このファンドでは、青矢印をつけたところ(2007年4~6月)、日経平均が1万8,000円をつけた時、日本株を売り、国債を買いました。当時は世界的に景気が良く、私は、「日経平均はまだまだ上がりそうなのに、ルールだから仕方ない」と渋々、日本株を売ったのを覚えています。

 赤矢印をつけたところ(2008年10月)、日経平均が1万円から8,000円割れまで下がった時は、複数回にわたり、国債を売却し、日本株を買い増ししました。この時、私は、「日本株は下がり過ぎ」と考えていましたので、株を買っていくことに違和感はありませんでした。ただし、ルールがなければ、あそこまで大胆に買い増しを続けることはできなかったと思います。

 それでは、そのファンドに定められていたリバランスのルールを、説明します。そのファンドは、国内株と国内債券に投資するファンドでした。投資比率は時価ベースで、国内株40%・国内債券60%と決められていました。このファンドには、以下のようなリバランスのルールが定められていました。「時価ベースで組入比率が、5%以上基準から離れた時、組み入れを基準の方向に戻す」というものです。それだけです。

 どういうことか、具体的に説明しましょう。仮に100億円のファンドの運用を、国内株式40億円・国内債券60億円でスタートしたとします。スタート時点で、株の組入比率は40%、債券の組入比率は60%です。

 その後、国内株式で+25%、国内債券で+1%のリターンが得られたとします。すると、国内株式は50億円、国内債券は60.6億円に時価が増加しています。合計すると、ファンドの時価総額は、110.6億円に増えています。ここで、時価ベースで組入比率をはかり直すと、国内株式は45%に上昇、国内債券は55%に下がっています。基準となる組入比率(株40%・債券60%)より5%かい離したことになります。

 ここで、リバランス・ルールが発動されます。ファンドマネージャーは株を売り、債券を買わなければなりません。実際、2007年4~6月に、このルールが発動され、私は日本株を売り、国債を買いました。当時、日本株に強気だった私が、日本株を売ることができたのは、リスク管理のためのリバランス・ルールに従ったからです。

 逆に、日本株が大きく下落し、日本株の組入比率が35%以下になると、リバランス・ルールによって、日本株を買い増ししなければなりません。2008年10月、リーマンショック後に日経平均が急落する局面で、このルールは複数回にわたって発動されました。

 私がそのファンドを運用していたのは、2003年から2013年までですが、日本株組入比率の引き下げ・引き上げについて、大きな間違いをしないで済んだのは、リスクをコントロールするための適切なリバランス・ルールがあったからです。私が日経平均の先行きを予見する能力があったからではありません。