45~65歳:「高齢準備期」の課題

 例えば民間企業のサラリーマンや公務員の場合、45歳くらいから、セカンド・キャリア(おおむね60歳以降に、何をして働き、稼ぐかに関する計画)について考えるべきだろう。必要性があればより長く働くことを考えることもできるし、セカンド・キャリアへの準備が上手く行くか否かで将来の見通しが大きく変化する。

 前回の本連載「人的資本」という概念をご説明したが、将来の稼ぎの見通しの現在価値として人的資本を定義するなら、この時期におけるセカンド・キャリアのプランニングと実行の良し悪しによって、人的資本の価値が大きく変動する。

 多くの人の経済生活にあって、手持ちの資産の運用よりも、将来「何をして、どのくらい稼ぐか?」に関する準備の方が、影響が大きいだろう。

 とはいえ、この年代では収入が大きく、老後に備えて貯蓄をすることができる。あるいは、老後の生活に備えるために貯蓄をしなければならない時期だと考えることがより現実的かもしれない。

 リタイアメント後に蓄えが少ない場合、現役時代の支出と老後の支出に大きなギャップができ、現役時代との比較でリタイアメント後の生活が快適ではなくなる公算が大きいため、将来を直視した計画性が必要だ。計算してみて、「将来のお金が足りない」と思う場合、必要なのは、現在の生活支出の縮小と貯蓄の増加による現役時代と老後との支出のギャップを、なるべく平準化することだ。端的に言って、現在および見通せる将来にあって、自分の稼ぐ力に対して現在の支出が過大ではないか、と自問してみるべきだ。

 一方、この時期には、リタイアメント後の高齢期も含めて考えるなら、資産運用には十分長い期間があるし、運用可能な資金をそこそこに持っているケースが多いだろう。

 本稿の最大のポイントでもあるが、高齢準備期も、高齢前期も後期も、資産運用の方法は同じでいい。原則で言うなら「長期」「分散」「低コスト」の3点を心掛けて、保有資産の成長を期するべきだ。

 運用の具体的な方法については本連載でこれまでに何度もご説明してきたが、リスクを取る資産部分を内外の株式のインデックス・ファンドで運用し(外国株式6割、国内株式4割程度の配分をお勧めする)、リスクを取らない部分については、主に個人向け国債変動金利型10年満期で運用する組み合わせがいい。

 運用商品はこれらの3つで十分であり、年間の手数料(取引手数料と運用管理コストの合計)が、間違っても年率で0.5%を超えないように管理するべきだ。

 現在、低コストなインデックス・ファンドあるいはETF(上場投資信託)を利用すると、外国株式、国内株式共に、手数料コストが年率0.2%以内の商品を選ぶことができる。

 加えて、確定拠出年金やNISA(ニーサ:少額投資非課税制度)、つみたてNISAといった、税制上有利な運用の仕組みを最大限に利用したい。これらの口座では、運用益に対して非課税で複利運用ができるので、内外の株式のインデックス・ファンドによる運用を集中させることが効率的だ。運営管理機関が用意した運用商品ラインナップの中から、外国株式(先進国中心)と国内株式(TOPIX[東証株価指数]がいい)のインデックス・ファンドの手数料の低いものを選ぶべきだ。

 そして、老後のために必要な貯蓄額を計算してみると、確定拠出年金(個人型はiDeCo[イデコ:個人型確定拠出年金])と、つみたてNISAの利用可能額を合わせた金額を超えている場合が多いはずだ。これらの制度からあふれる金額は、通常の課税口座で独自に運用するといい。

  高齢準備期において経済的に重要なのは、

(1)セカンド・キャリアの準備

(2)計画的な貯蓄

(3)効率的な資産運用

 の順番であることが多いだろうが、(1)(2)の良し悪しと関係なく、(3)では最適な方法を選ぶことが重要だ。