金の投資家がするべき“三密回避”とは?
ここからは、金相場が単一の材料で動いていないこと、そしてそれを理解することの重要性と効果について、“三密回避”の側面から深掘りします。
“密を回避する”という行為は、自分を守る行為です。具体的には、密集しない、密接しない、密閉空間にいないことで、他人と物理的な距離(ソーシャルディスタンス)を確保し、飛沫などによる感染から自分を守る行為です。
三密回避は、“感染源から自分を離すこと”、つまり、自主隔離です。
“何かから自分を離すこと”を、密を回避する行為と考えれば、ある意味、密の回避は、これまで執着していたものから、自分を独り立ちさせる行為とも言えます。物理的距離ではなく、他人や他物との心理的な距離を確保することです。
執着しすぎない、という点で言えば、盲目的にならない、近視眼的にならないこともまた、密を回避する行為と言えます。
筆者は、有事を目の当たりにすると買われる傾向がある金への投資にあっては、他人や他物と心理的な距離を確保する、盲目的・近視眼的にならない、といった“密の回避”は、非常に重要なことだと考えています。
“三密”になぞらえて、以下の通り3つ、回避すべき密を考えました。
・過去の常識から自分を離す
・集団心理から自分を離す
・過去の成功体験から自分を離す
過去の常識とは、材料を点で見ることです。過去には、株との関りだけ、ドルとの関りだけ、有事だけで、金相場の動向を説明できた時代があったわけですが、先述のとおり、現代の金相場はそうではないため、過去の常識から自分を離すことが必要です。先述の“多層化”を重視することで、この密を回避することができます。
集団心理とは、大手の外資系金融機関や著名なアナリストの呼びかけによって巻き起こる同調です。先日、米金融大手が金価格は今後2,000ドルまで上昇すると、大胆な見通しを示しました。
複数の機関がこれを報じ、拡散され、個人の目にも触れるようになりました。同調の中にあっては、個人は盲目的になりやすく、冷静な判断ができなくなることがあります。投資にあっては、冷静さが必要であるため、集団心理から自分を離すことが必要です。
過去の成功体験とは、過去に行った投資で上手くいった事例です。同じような場面に遭遇したとしても、うまくいった事例が例えば、2008年のリーマン・ショック前の数年間だった場合、現在と状況が大きく異なるため、今回もうまくいくとは限りません。
リーマン・ショック前の数年間は、新興国の台頭により、中国・インドの宝飾需要が大きく増加した時期でした。諸情勢を考えれば、現在は、中国・インドの宝飾需要がかつてのような急増が再現されることは難しいでしょう。
また、リーマン・ショック以降、大規模な金融緩和が行われたことで、材料の“多層化”が目立ち始めました。少なくとも2008年と現在とでは、金相場を取り巻く環境は大きく変化したと考えられます。このため、特に遠い過去にさかのぼった成功体験から、自分を離すことが必要です。