投資小説:もう投資なんてしない⇒

<最終話> もう投資なんてしないなんて言わない

 いつものように隆一は金曜日の19時に先生のところに向かった。

 今日が最後になると思うと、本当に自分は先生から教わったことをきちんと理解しているのだろうかと不安になった。

 新橋の烏森神社の横の階段を降り、ドアをノックしたが先生は出てこない。ドアを押すと鍵はかかっておらず、スッと開いた。

 中に入ると先生の姿はなく、ソファの前のテーブルに1通の手紙がおいてあり、表には「木村隆一様へ」と書かれていた。

 隆一はソファに座り、手紙の封を切った。

 

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木村 隆一様

あなたと初めて会った時は雪がぱらつく2月でしたが、そこから早いもので半年が経ち、季節は春、夏を通り過ぎ、秋に差し掛かろうとしています。

あなたはかつて、見よう見まねで始めた株式投資で失敗し、損を出したことを後悔しつつも、投資を体系的に身に付けたいという思いで、毎週私を訪ねてきました。

私はあなたに伝えたように、もうすでに何十年も前のことですが、為替のトレーダーをしていました。

そこであなたと同じように<Mr.マーケット>に振り回され、自分をコントロールできなくなり大きな損を出した上に、大切な友人も失いました。

その後、マーケットからリサーチの仕事に変わり、企業分析などをしていました。

あれはもう15年前になるでしょうか。出張でニューヨークからボストンに行くために飛行機に乗ると、隣に60代の女性が座りました。

その女性に「あなたは何の仕事をしているの?」と聞かれたので、「ファイナンスの仕事をしています」と答えると、「それは本当に素晴らしい仕事をしているわね。私がこうして悠々自適な生活ができるのも、投資をずっと継続してきたお陰なの」と言うのです。

さらに「若い時から給与天引きで投資信託を購入してきて、リタイアする頃にはそれが、100万ドルなっていてもうびっくりしたわ。さらにそれがいまでも年率4%前後で回っているので、そのお金で旅行に行ったり、孫の教育を支援したり、教会に寄付をしたりできているの。本当に投資ってすごいわね」と興奮しながら話すのです。

その言葉を聞いて、私は脳天を撃ち抜かれたような感覚に襲われました。

そこから、私のライフワークは、いかにこの女性のように投資の力で幸せになる人を多く作ることができるかになりました。

日本ではまだ、投資へのアドバイスというとテクニックに関する話ばかりで、それは私からすると、パチンコで勝つ方法となんら変わりはありません。