米労働市場は底を打った?

 米労働省が14日発表した失業保険の新規申請件数(新しく失業保険給付を申請した人数)は、5月23日までの1週間で212.3万件。その前の週は244.6万件、その前の前の週は268.7万件でした。これを、悪化が止まらないと見るか、それとも改善していると見るか。

 マーケットは「改善している」と見ています。実際、一部地域にとどまらずアメリカ32の州において保険申請件数は減少しています。緩やかながらも労働市場は幅広く回復していると、前向きにとらえています。

 回復の背景には、米政府による積極的かつスピード感ある景気刺激策がありました。アメリカでは、すでに4月の段階で日本円で総額230兆円に上る過去最大の経済対策が成立していますが、それだけはなく、休業などに追い込まれた中小の飲食店や工場などが従業員の雇用を維持して給与を支払い続けるために、追加的に日本円で27兆円に上る対策もまとめています。

 例えば全国民を対象に現金給付を実施したほかに、外出禁止で働くことのできない労働者には、有給休暇という形で1日当たり200ドル未満、または累計で1万ドルを上限に、10週間は3分の2の報酬をもらえる「Emergency Family and Medical Leave Expansion Act (EFMLEA)」、あるいは、1日当たり511ドル未満、または合計で5,110ドル未満を2週間もらえる「Emergency Paid Sick Leave Act(EPSLA)」を選択できるようにしました。さらに失業者に対しては、失業保険を週当たり600ドル、13週間までもらえるよう延長した法律もあります。

もう働く必要ない?

 米政府の大規模な景気刺激策の成果が表れる一方で、これが別の問題を引き起こしています。休業手当があまりに手厚いため、働かないほうが、かえって収入が良くなるケースが増えているのです。景気刺激策が経済再開を遅らせてしまうおそれがでてきました。

 トランプ政権も、このような事態は想定していなかったでしょう。そこで今度はどうするかというと、失業者が再び就業した場合、週450ドルの臨時手当を支給するという「復帰手当」を検討しています。

 休業補償をこのまま続けていけば国家財政は破綻。かといって、打ち切れば生活困窮者が一気に急増することになる。アメリカの労働市場が回復したと安心するのは、まだ早いのです。

 アメリカの状況を見ると、景気対策が巨額すぎても逆効果になるのだと考えてしまいます。もしかすると日本政府は、アメリカみたいにお金を使う必要はない、景気対策は10万円(と布マスク2枚)で十分と知っていたのかもしれません。議事録がないのでわかりませんが。