過去3カ月の推移と今回の予想値
前回雇用統計のレビュー
先月発表された4月の米雇用統計は、非農業部門雇用者数が戦後最悪の2,050万人減少しました。失業率は10.3ポイント上昇して14.7%へ。失業率は月間上昇率としては過去最大でした。
雇用はすべての主要産業部門で大幅に減少しましたが、特にレジャー部門とサービス部門の落ち込みが顕著でした。この急速で大幅な悪化は、新型コロナウイルス世界的流行の影響と、それを封じ込めようとする努力(ロックダウン)を反映した結果だと米労働省は説明しています。
一方、4月平均労働賃金は、前月比4.7%、前年比7.9%アップと大幅上昇。低賃金労働者が新型コロナウイルスの影響で大量に解雇されたことと関係があります。
5月雇用統計の予想
BLS(米労働省労働統計局)が6月5日に発表する5月の雇用統計は、市場予想によると、NFP(非農業部門雇用者数)は800万人減少、失業率はさらに上昇して19.6%になる見込みです。
アメリカの労働人口1億6,300万人の約5人に1人が職を失った計算になるわけですから、深刻な状況にかわりはありません。マスメディアも、アメリカの失業率がついに20%に達するおそれがあると報じています。
とはいえ、失業率悪化は2カ月も前から予想されていたこと。20%という数字がサプライズかといえば、そうではありません。(まさか5.0%に下がるとでも思っていましたか?)
米労働市場は底を打った?
米労働省が14日発表した失業保険の新規申請件数(新しく失業保険給付を申請した人数)は、5月23日までの1週間で212.3万件。その前の週は244.6万件、その前の前の週は268.7万件でした。これを、悪化が止まらないと見るか、それとも改善していると見るか。
マーケットは「改善している」と見ています。実際、一部地域にとどまらずアメリカ32の州において保険申請件数は減少しています。緩やかながらも労働市場は幅広く回復していると、前向きにとらえています。
回復の背景には、米政府による積極的かつスピード感ある景気刺激策がありました。アメリカでは、すでに4月の段階で日本円で総額230兆円に上る過去最大の経済対策が成立していますが、それだけはなく、休業などに追い込まれた中小の飲食店や工場などが従業員の雇用を維持して給与を支払い続けるために、追加的に日本円で27兆円に上る対策もまとめています。
例えば全国民を対象に現金給付を実施したほかに、外出禁止で働くことのできない労働者には、有給休暇という形で1日当たり200ドル未満、または累計で1万ドルを上限に、10週間は3分の2の報酬をもらえる「Emergency Family and Medical Leave Expansion Act (EFMLEA)」、あるいは、1日当たり511ドル未満、または合計で5,110ドル未満を2週間もらえる「Emergency Paid Sick Leave Act(EPSLA)」を選択できるようにしました。さらに失業者に対しては、失業保険を週当たり600ドル、13週間までもらえるよう延長した法律もあります。
もう働く必要ない?
米政府の大規模な景気刺激策の成果が表れる一方で、これが別の問題を引き起こしています。休業手当があまりに手厚いため、働かないほうが、かえって収入が良くなるケースが増えているのです。景気刺激策が経済再開を遅らせてしまうおそれがでてきました。
トランプ政権も、このような事態は想定していなかったでしょう。そこで今度はどうするかというと、失業者が再び就業した場合、週450ドルの臨時手当を支給するという「復帰手当」を検討しています。
休業補償をこのまま続けていけば国家財政は破綻。かといって、打ち切れば生活困窮者が一気に急増することになる。アメリカの労働市場が回復したと安心するのは、まだ早いのです。
アメリカの状況を見ると、景気対策が巨額すぎても逆効果になるのだと考えてしまいます。もしかすると日本政府は、アメリカみたいにお金を使う必要はない、景気対策は10万円(と布マスク2枚)で十分と知っていたのかもしれません。議事録がないのでわかりませんが。
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