今日のポイント

・「希望の党」設立、民進党の合流決議を受け、安定多数を確保できると踏んでいた自民党の目算は大きく狂う。解散総選挙を実施して敗北した英国の保守党党首・メイ首相を彷彿。
・解散総選挙で安倍首相の政治基盤が強化される見通しが広がれば、外国人は日本株の買うと予想されるが、まさかの敗北ならば売りに転じる可能性も。

 

解散総選挙は怪しい雲行き

 衆議院は9月28日、正午から開かれた本会議で、大島理森衆議院議長が解散詔書を読み上げ、解散されました。10月10日公示、22日投票の総選挙に向けて、事実上の選挙戦が始まりました。

 与党として3分の2超の議席を有する状態で、安倍首相が無謀とも言える解散を強行したのは、それなりに計算し尽くしての決断と考えられます。ある程度議席を失っても安定多数を確保できれば、政権基盤が強化されると読んでの解散だったと言えます。

 ところが、事態は思わぬ方向に急転しました。小池百合子東京都知事を代表として「希望の党」が設立され、民進党が「希望」への合流を決議。与党(自民・公明)に、希望の党が真っ向勝負を挑む形が、できあがりつつあります。

 安倍首相にしてみれば、野党第1党の民進党から離党者が相次ぎ、小池新党の体制が整わないうちに、絶好のタイミングで奇襲を仕掛けたはずでした。ところが、奇襲を受けることによって、いつまでも決めることができないと見られていた小池国政新党の立ち上げ、民進党の身売りとも見える合流が、一気にまとまってしまいました。安倍首相が、小池新党のもとに野党が大同団結するのを手助けしてしまったとも言えます。

 もちろん、急造りの希望の党も、盤石と言うには、程遠い状態です。民進党議員を丸のみすれば、民進党の看板を付け替えただけと見られます。

 小池代表は左派系議員の公認を拒絶する方針ですが、民進党内からかなりの反発が出ています。団結力のある勢力となるか、わかりません。

 ただ、安倍首相にとってとんでもない誤算であったことは間違いありません。首相が勝敗ラインと位置づける与党(自民党+公明党)で過半数(233)の確保は可能でしょう。ただし、仮に233議席しかとれないとすると、解散前の与党議席(322)から89議席も減らすことになります。政権は維持できても、安倍首相の責任を問う声が広がるのは間違いありません。政権基盤を強めるために強行した選挙で、求心力を失うことになります。

解散の第一報に「買い」で反応した外国人は再び様子見に

 今、欧米では、今回の日本の解散総選挙が、6月に実施された英国の総選挙を思い起こさせると、話題になっています。保守党のメイ首相は、保守党の支持率が高く、野党労働党の支持率が低かった4月に、下院を解散し、3年前倒しの総選挙を実施しました。解散前、与党保守党は下院で51%と辛うじて過半数を有していました。保守党の圧倒的な人気を背景に、安定多数を確保しようと、3年も前倒しの総選挙に打って出たのでした。結果は、保守党の「まさか」の敗北に終わりました。

 今回の解散の一報で、外国人投資家は、自民党の政権基盤が強まると考え、日経平均先物を買ってきましたが、雲行きが怪しくなったことで、再び、様子見に転じています。

英選挙の教訓「選挙は水もの」、選挙戦に入って突然変わった風向き

 ここで、6月8日に実施された英下院選挙を簡単に振り返ります。

 選挙戦序盤では、メイ首相率いる保守党が大勝すると予想されていました。ところが、改選前、下院で51%を占めていた保守党は、過半数を割る49%しか獲得できませんでした。メイ首相は「今なら勝てる」と判断して、下院総選挙の前倒し実施を決断しましたが、英国民の意思を完全に読み違えていたのです。一方、第2党のコービン党首率いる労働党が、改選前、35%占めていた議席を、40%に伸ばしました。

 保守党の票が労働党に流れ、「まさか」の敗北となった要因は、主に2つあります。

(1)テロ対応遅れに対する批判

 選挙直前に、英国でテロが相次ぎました。労働党のコービン党首は、メイ首相が内相時代に警察官を2万人削減したために、テロが増加したと、メイ首相の責任を追及しました。テロ続発が、保守党の支持率を下げ、労働党の支持率を上げる要因となりました。

(2)緊縮財政に対する批判

 保守党は、伝統的に「資本主義、経済効率」を重視する政党で、第2党の労働党は、「社会福祉、貧富の差縮小」を重視する政党です。保守党は、大勝すると誤認したうえで、社会福祉の削減を含む緊縮財政継続のマニフェストを発表しました。これに対し、英国民から、多数の批判が出ました。労働党は社会福祉を手厚くするマニフェストを作り、貧富の格差拡大を招く保守党の政策を批判しました。その結果、低所得者層の票が労働党に流れました。

 メイ首相が下院選挙を前倒し実行しなければ、保守党は、単独過半数をあと3年維持できるはずでした。わざわざ前倒し選挙をやり、過半数割れとなったダメージはきわめて大きいと言えます。

 メイ首相及び保守党は、もともとはEU(欧州連合)離脱に反対でした。ところが、昨年6月の国民投票では、EU離脱賛成が過半数を占めました。英国でも貧富の差が拡大し、社会的な分断が深まっていました。低所得者の不満の高まりが、EU離脱方針「可決」の原動力となりました。

 そこで、メイ首相および保守党は、きっぱりEU離脱に舵を切り替え、ハード・ブレグジット(EUとの関係をきっぱり断つ、EU単一市場から外へ出る)も辞さない強い姿勢で、EUと離脱交渉を始めていました。その姿を見て、離脱賛成派にも、反対派にも、「メイ首相のリーダーシップのもとで離脱交渉を進めよう」という機運が一時広がっていました。

 メイ首相は「ハード・ブレグジット辞さず」の姿勢さえ打ち出せば、低所得者の支持も得られると、完全に誤解していました。しかし、実際はブレグジットを打ち出しながら、緊縮財政を打ち出すメイ首相に低所得者層は不安を感じ、労働党支持に流れたと考えられます。

欧米に広がる「新党ブーム」、日本はどうなる?

 近年の欧米の議会選挙では、既存の政党に不満を持つ層の票が、強いリーダーを有する新党に流れる傾向が強く出ています。その最たる例が、4~6月に行われたフランスの大統領選、および、議会選挙です。

 大統領選では、既存の政党のバックを持たない「共和国前進」のマクロン氏が大勝しました。既存政党の有力候補は、早い段階で次々と脱落していきました。5月の決戦投票は、マクロン氏と、フランス版ドナルド・トランプと言われた「国民戦線」ルペン党首の対決となりましたが、マクロン氏が勝利しました。

 6月の仏議会選では、マクロン大統領の「共和国前進」が一気に、過半数を取りました。既存の政党のバックがなかったマクロン氏が、大統領選でも議会選挙でも立て続けに大勝したわけです。それだけ、既存の政党へのフランス国民の不信感が強かったと言えます。

 9月24日に実施されたドイツ連邦議会(下院)の選挙でも、新興勢力が議席を大きく伸ばしました。メルケル氏が率いる与党キリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)は第1党の座を維持したものの、大きく議席を失いました。一方、新興の極右勢力「ドイツのための選択肢」(AfD)が議席を獲得しています。

 日本にも1993年に、「日本新党現象」と呼ばれる新党ブームがありました。自民党の長期政権に不満が高まる中、1992年5月に細川氏を党首に立ち上げたばかりの日本新党が一大ブームを巻き起こしたのです。1993年には細川氏が非自民連合の中枢として首相に就任し、自民党からの政権奪取に成功しました。

 細川内閣はわずか1年で総辞職に追い込まれ、日本新党ブームは長続きしませんでした。それでも、一時「日本新党から出れば誰でも当選する」と言われるほどの熱狂的なブームを巻き起こしたことは、日本の政治史に残る出来事となりました。

 希望の党がどういう形をとるか、まったくわからない中で、かなり先走った話をしましたが、今後の展開をしっかり見ていくことが重要ということは、間違いありません。

解散総選挙に加え、北朝鮮情勢、ドル/円の動き、9月中間決算の発表にも注目

 外国人投資家は目先、自民党が勝ちそうならば日本株は買い、負けそうなら売りという反応をする可能性が高いと見ています。今後の選挙情勢から目が離せません。

 ただ、日経平均は、選挙だけで動いているわけではありません。北朝鮮情勢、ドル/円、企業業績の推移も重要です。

 今のところ、北朝鮮の脅威(戦争が始まり日本が巻き込まれるリスク)は、いったん、低下したと考えられ、急激な円高が進むリスクもやや低下したと見られます。9月中間決算の業績動向も、おおむね良好でしょう。

 選挙で突発的な悪材料が飛び出さない限り、日経平均は、上昇が続きそうです。解散総選挙で、自民党がまさかの敗北を喫するか、今後の選挙情報に注意が必要です。