今こそ前を向く

 バフェット氏の投資に一貫する哲学は「オーナーシップ」です。オーナーだからこそ、保有先企業の株価ではなく、その企業が生み出す利益にこだわります。オーナーだからこそその企業を適切に監督するべくガバナンスにこだわるのです。

 近代ファイナンス理論が隆盛の世の中で、バフェット氏の投資哲学、投資手法は極めて原始的かつ洗練度に欠けるように見えるかもしれません。そこには小難しいギリシャ文字もなければ、高度な数学、統計学を駆使した前提もありません。しかし「オーナーシップ」という資本主義の根本原則の上に構築された理論と実践は、まるで物理学のようなシンプルな真理を持っているように見えます。本質的なものは時代が移り変わっても色褪せることはないのだと感じます。

 コロナショックが蔓延する金融市場において、本質に立ち返ることはとても重要です。このような危機の時にこそ、いろいろなものの本質が見えてきます。このようなとき、人はどのように感じ、どのように動くのか? 変わるものはなにか、変わらないものはなにか? 投資とはなにか、私たちは本当に勝てるのか? そのような人間の本質、投資の本質に触れることができる機会に接して、他の人たちと一緒に下を向いている場合ではありません。

 私は「こういう時期にこそ我々のチームの真価が発揮されるのだ」とチームメンバーにブラックなハッパをかけています。金融市場ではリーマンショック、東日本大震災、ユーロショック、ブリクジット…大きなものから些細なものまで、様々な「危機」が割と頻繁に起こります。そういうときこそ、普段からの企業分析の蓄積が大きな意味を持ってきます。と同時に危機を一つ経験するたびに、普段からの企業分析の深さが変わってきます。我々のチームはまだまだこれからです。これからも長期投資という面白い世界の中で、素晴らしいビジネスを探しもとめ、それをより深く分析していくチームでありたいと考えています。

農林中金バリューインベストメンツ株式会社
常務取締役 兼 CIO 奥野 一成

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