株主への手紙:前文

 今回から5回と特別編に分け、ウォーレン・バフェット氏が率いるバークシャー・ハサウェイ社の2019年度年次報告書から、冒頭に掲載されているバフェット氏による「株主への手紙」の全文和訳(訳:農林中金バリューインベストメンツ)をお送りしたいと思います。

 バフェット氏は過去の「手紙」の中で、「最も好ましい投資期間は“永久”だ」と述べています。そのため、バフェット氏がある企業の株式を売却したという報道があると「ついにバフェットが投資哲学を曲げた!」「永久投資なんて嘘だ!」と論じられます。

 しかし、以前の記事で見ていただいた通り、バークシャー社は多くの事業会社を完全保有するコングロマリットで、上場株への投資は総資産の3割程に過ぎません。そして、バフェット氏は、やはり過去の「手紙」の中で「“永久保有”は支配権を持つ事業に対してであり、上場株は必ずしも該当しない」ともはっきりと述べています。

 一方で、バークシャーによる上場株の平均保有期間が、一般的な機関投資家のそれよりもはるかに長いことは間違いありません。コカ・コーラのように二十数年にわたって1株たりとも売却せずに保有を続けている企業もあります。「株券ではなくビジネスを買う」という考え方をもって、上場株であっても、あたかも企業買収を行う場合のように投資をする投資姿勢こそがバフェット氏の本質なのです。

 私たち農林中金バリューインベストメンツにとって、企業が営む事業の“構造”に着目して長期保有をする投資スタイルは、バフェット氏の「永久保有」哲学に通じるものであると感じています。毎年、タイムリーな話題にも触れながら、変わらず貫かれる氏の投資哲学に触れることができるこの「手紙」を和訳して読み解くことは、私たち自身の投資の原点に立ち戻る良い機会を与えてくれています。そして、四半期や1年単位の投資成績を気にせずに投資と向き合うことができる個人投資家の皆さんにとっても、示唆の多いものであると考えます。

 今年の「手紙」でも、バフェット氏は、実際の投資を例に挙げて、自らの投資哲学・バークシャー社の企業哲学と組織運営に関する議論を展開しています。一部分を切り取って訳したものは一般紙等でも掲載されていますが、全文通してお読みいただくことで、バフェット氏の人となり含め、新たな発見があると思います。連載の最後には、特に重要と思われる箇所について、訳者の解説も付しました。

 それでは、「バフェットの株主への手紙 2019」、どうぞお楽しみください。
(農林中金バリューインベストメンツ)