米国の各種原油在庫は急増中。しかし“事前予想よりも増えていない”

 日本市場が休場だった5月6日(水)、米国では、EIA(米エネルギー省)が週間石油統計を公表しました。週間石油統計は、文字通り週次ベースの統計で、米国の原油や石油製品などの、生産量、消費量、輸出入量、在庫量などが収録されています。

 以下のグラフは、米国の原油在庫の推移です。

図:米国の原油在庫 単位:千バレル

出所:EIA(米エネルギー省)のデータをもとに筆者作成

  また、以下のグラフは、WTI(West Texas Intermediate)原油の主要な集積地であるオクラホマ州クッシング地区の原油在庫の推移と貯蔵量の上限です。

図:オクラホマ州クッシング地区の原油在庫と貯蔵量の上限 単位:千バレル

出所:EIAのデータをもとに筆者作成

  5月6日(水)に公表された5月1日(金)時点の米国の原油在庫は、前週比増加、統計史上最高(5億3,554万バレル)まであと332万バレルに迫る5億3,222万バレルでした。次回の公表(5月13日)で、統計史上最高を記録する可能性があるほど、高水準でした。

 また、同時に公表された、5月1日(金)時点のオクラホマ州クッシング地区の在庫は、前週比増加、6,336万バレルでした(輸送中を除く)。EIAは、この地区の貯蔵能力の上限は7,600万バレルとしています。つまり、同時点で貯蔵能力の83.3%が使用されているわけです。

 以前の「[緊急臨時レポート]NY原油相場、初のマイナス圏。いったい何が起こった!?」で、WTI原油先物が4月20日(月)にマイナス価格をつけたことについて、その一因に、同地区の貯蔵能力が限界に達しつつあることが挙げられると、述べました。(4月20日(月)のマイナス価格発生は、WTI原油の貯蔵能力の低下の他、WTI原油関連のETFの大規模なロールオーバーや、米国国外の投資家の売買など、複数の要因があったと考えられています)

 クッシング地区の原油在庫は当時よりも増えています。また、一部の報道は、すでに、5月に同地区の原油在庫は貯蔵能力いっぱいになる予定だ、としています。つまり、5月19日(火)の、WTI原油先物6月限の納会日前に、期近(6月限)がマイナス価格に陥る条件の一つが存在しているわけです。

 5月6日(水)に公表された、米国全体およびクッシング地区の原油在庫が高水準で、かつマイナス価格発生の可能性を高める方向に向いているにも関わらず、この日も、原油相場は上昇しました。

 一部の報道は、この日の上昇の一因に、“原油在庫が事前予想に比べて、増加幅が小さかったことが挙げられる”としています。この日の原油市場は予想していたような大規模な増加にならなかったことを“予想よりも悪くなかった”と受け止め、最悪の事態が避けられたことに安堵したのだと思います。

 また、たとえ各種原油在庫が高水準で、かつマイナス価格発生の可能性を高める方向に向いていたとしても、市場関係者の予想よりも悪くなかったことを重視し、前向きに評価していることから、上昇要因の“よいところ取り”をしている面もあると思います。