執筆:窪田真之

<今日のポイント>

・モノの値段が上がらない時代でも、人手不足産業では料金引き上げが通るようになってきた。料金引き上げに動く陸運業、受注単価改善で業績好調な建設土木業に注目。

・人手不足の中で、効率的にサービスを供給するITサービス業に注目。ITサービス普及でITインフラを構築する企業にも追い風が吹いている。

 

人手不足が常態化 サービス業にインフレ圧力

 日銀は、インフレ目標(年率2%)の達成を、2020年度まで先送りしています。国内でモノの値段が上がらないことに苦しんでいます。

 ただ、目を違うところに向けると、日本で新たなインフレが始まっていることに気づきます。恒常的な人手不足に苦しむ時代になったことを受けて、日本でサービス価格の上昇が始まっているのです。今後は料金引き上げが通る広義のサービス産業(土木建設、陸運、情報通信など)の投資価値が高まると考えられます。

 少子化が人手不足の根本的な原因です。日本の人口構造を見る限り、好不況にかかわらず、今後、慢性的な人手不足が続く見込みです。

<日本の完全失業率(季節調整済)と、有効求人倍率の推移:2012年1月~2017年7月>

出所:完全失業率は総務省、有効求人倍率は厚生労働省、有効求人倍率は新規学卒者を除きパートタイムを含むベース
【注】有効求人倍率:求人数を求職者数で割ったもの。労働需給がひっぱくし、求人数が求職者を上回ると、倍率は1倍を超える。7月の有効求人倍率1.52倍は、求職者1人に対して求人が1.52人分ある状態を示す

 

料金引き上げが通るようになった陸運業に注目

 モノは、一時的に不足しても、すぐに大量生産されて供給過剰になりますが、人手をかけないと供給できない良質な「サービス」は、恒常的に不足する時代になりました。

 ドライバー不足で宅配便がサービスの縮小と、料金引き上げに動かざるを得なくなったことが最近、話題になりました。ネット通販の普及で、陸運業は超繁忙が続いていますが、これまでは過当競争で料金の叩き合いが続いていたため、「利益なき繁忙」に陥っていました。今後は、料金引き上げを通すことで、利益を稼ぐ体質に変わっていくと予想しています。

 ただ、陸運業では、現在は違法残業の撲滅に向けて「働き方改革」を進めているところですので、当面は人件費の上昇が利益を圧迫する見込みです。それでも、料金引き上げが通れば、「利益ある繁忙」に変わっていく可能性があります。

 陸運業では、今期(2018年3月期)会社予想ベースで、経常最高益を更新する見込みの日本通運(9062)センコーグループHLDG(9069)日立物流(9086)などに注目しています。

 

最高益更新でも上値が重くなった建設土木株に改めて注目

 これは、建設土木業界で、すでに経験したことです。建設土木業界は、5年くらい前までは、「利益なき繁忙」に苦しんでいました。仕事量はどんどん増えていましたが、人手不足で工期の遅れと人件費の上昇で苦しんでいました。少し前の陸運業界と同じで、過当競争体質だったので、工事を受注する際に、価格の叩き合いをやっていたことが問題でした。

 ところが、その後、利益が急速に改善し、今、大手ゼネコン各社は軒並み最高益を更新しています。選別受注をはじめ、建設単価が上昇したことが、「利益ある繁忙」に変わるきっかけとなりました。

 建設土木株は、最高益を更新しつつあっても、株価が伸び悩むようになりました。2020年まで、仕事は豊富にあるが、その後は仕事が減るとの懸念があるためです。利益が拡大する中で、株価が伸び悩んできたので、大手ゼネコン株は、PER(株価収益率)で見て10倍前後と、割安なものが増えています。

 建設土木業では、毎期、非常に保守的(低め)の業績予想をたてて、9月中間決算を発表するあたりから、利益の上方修正を発表することが多くなっています。今期(2018年3月期)についても、低めの予想をたて、中間決算発表時に上方修正が予想される企業が増えています。

 安藤・間(1719)清水建設(1803)鹿島建設(1812)などは、今期業績予想の上方修正が予想されるので、少し投資してみても良いと考えています。

 

人手をかけずに良質なサービスを量産するITサービス業、ITインフラ構築企業に注目

 介護・医療・保育・宅配便・外食・建設・健康管理など、人手不足が深刻な分野はたくさんあります。20世紀は、良質な「モノ」をいち早く大量生産する企業が、成長企業となりましたが、21世紀は、良質な「サービス」を大量供給する企業が、成長企業となるでしょう。

 ただし、サービスの供給を2倍に増やすために、人員を2倍に増やさなければならないビジネスは、成長しません。良質なサービスを安価に大量生産するビジネスモデルを作ることが大切です。

 サービスの効率的な大量生産に寄与するもっとも重要な産業が、情報通信産業です。ネット通販で、数々の成長企業が出ていますが、リアル店舗を出店するのにかかるコストを、ネット出店により大幅に削減したことで、成長産業となります。銀行・保険・証券など、さまざまなビジネスがネットで実現しています。交通機関やホテル美容室の予約なども、ネットがリアル店舗の代わりをするような時代です。

 ITサービスが幅広く普及するに伴い、ITサービスの提供・ITインフラの構築は、喫緊の課題です。ITインフレを構築する企業からも、成長企業が出やすくなっています。

 この分野では、野村総合研究所(4307)富士通(6702)NTTデータ(9613)リクルートHLDG(6098)などに注目しています。