債務、債務、債務

 2020年の残りの期間、新型コロナウイルス感染がある程度抑制されていれば、経済再開は積極派と慎重派の中間経路を進む可能性が高いでしょう。どちらかと言えば、慎重派には早すぎと思える経路です。それでも、経済回復は「V」字でなく、「レ」の字のハネを恐る恐る進むイメージです。

 企業倒産、失業は高水準にとどまり、政府・中央銀行の政策サポートも続くでしょう。政府は債務(財政赤字)を膨らませ、多くの企業も公的信用支援での債務を増やし、個人事業主への無利子融資も家賃猶予も債務です。世の中は政府も企業も家計も債務、債務、債務。それでも、企業や労働者が土俵を割らないよう、信用支援が不可欠な場面です。

 コロナ終息が展望できても、重い債務を抱えた企業や家計が支出を抑制すると、景気全般の足取りは重いままになります。政策支援も長引くでしょう。いったん何でもありの政策を打ち出した政策当局者は、景気を反落させられないという使命感(強迫観念)と、政策コストへの節度の緩みが相まって、手を引けなくなるでしょう。まして、市場が政策の「出口」を懸念して動揺するようなら、政策当局も出口を先送りせざるを得ないでしょう。

 世界に目を向けると、国際的な債務問題のリスクがそこかしこにあります。特に対外債務を抱える新興国には、医療体制が不十分で、景気対策の発動余力が乏しく、新型コロナウイルス感染による社会不安から国家的危機に陥りかねない国が多々あります。先進国は新興国債務の猶予を申し合わせましたが、猶予解除後の不安も市場の圧迫要因になります。

デフレ80%、リフレ(期待)20%

 筆者の想定では、債務の重圧で経済全体が重くなり、デフレを警戒すべきシナリオの生起確率が80%です。恐る恐る進む景気回復途上では、サプライチェーンの復興も焦(じ)れったく、観光業や飲食業など非製造業の立ち直りの足取りも重いとみられます。その間、新型コロナウイルス感染再燃、米大統領選の不透明感、米中対立、政策出口への不安、新興国危機などのリスク要因への警戒を怠れません。

 他方、新型コロナウイルス感染が思いがけず早期に鎮まり、過剰な財政金融政策がリフレ作用を発揮するシナリオも20%意識しています。正確には、年内では、市場が早まってリフレ期待をはやす可能性が20%以上あるでしょう。株式相場は景気に先行する傾向があります。経済は劇的な落ち込み分、いずれ急反発する場面があるでしょう。株式相場はこれに先行して上値をトライし、デフレ懸念より、リフレ期待を先行させるシナリオです。

 その場合でも、当レポートで述べてきた経済回復過程の制約の多くは不可避と考えています。新型コロナウイルス感染再燃リスクが続く「withコロナ期」では、経済が回復に向かっても、そのペースに舞い上がることなく、相場の持続性を割り引いて見る冷静さが必要と考えます。