個人のお金に応用する「合計思考」

 さて、本連載の趣旨は連載タイトルの通り「投資教室」だ。「合計思考」を、投資をはじめとする、個人のお金の問題に応用できなければ、話にオチが無い。

 実は、個人のお金の問題にあっても、「合計思考」は応用が利き、大切だ。

 簡単な例は、iDeCo(イデコ:個人型確定拠出年金)、NISA(ニーサ:少額投資非課税制度)などの複数の口座にまたがる資産運用だろう。例えば、iDeCoに加入していたり、勤務先に企業型確定拠出年金があったりする場合の確定拠出年金の運用商品選択だが、(1)自分の運用資産全体の合計を最適化した上で、(2)その中で確定拠出年金に適した部分を「割り当てる」と考えると正しく決めやすい。

 よくある間違いは、「確定拠出年金は、老後の備えとなる年金なのだから、ほどほどに安定したもので運用したい」などと考えて、「ターゲットイヤー・ファンド」などと称するバランス・ファンドを選択するようなケースだ。

 今は、債券の利回りがほぼゼロであり、せっかく運用益への課税が繰延される優遇措置がある確定拠出年金の口座の中で、債券を含むファンドに投資することは、税制上も、運用手数料の上でも、「もったいない!」。

 筆者は、確定拠出年金、各種のNISAにあっては、よほど運用資産額が大きくなっていない限り、ほとんどの場合、国内外の株式のインデックスファンドを割り当てたらいいと思っている。

 また、別の例として、NISAと一般の課税口座(証券会社の特定口座など)の両方で株式を運用している場合、NISAは税制優遇期間の途中で保有対象を売却してしまうと税制優遇された運用枠が縮小してしまうため、「将来、相対的に売りたくなりづらい投資対象」を割り当てるのが適切だ。例えば、インデックスファンドと個別株式の投資を両方行っているような場合、NISAにはインデックスファンドを持って、個別株式は一般口座で持つようにするのが正解だ。

 部分だけでなく全体を見る思考法として、個人に有効な別の例としては、「金融資産」と「人的資本」を合計して見る考え方がある。

 例えば、若くて、健康で、安定した職に就いている個人は、自分自身の「人的資本」(将来の稼ぎを割引現在価値として評価した「個人の株価」のような概念)が大きいので、金融資産の運用で大きな比率でリスクを取っても、全体から見ると、そのリスクが取るに足らないケースがしばしばある。

「金融資産+実物資産+人的資本+負債」といった形で、自分の経済的な利害を広く見る考え方も有効だ。個人、あるいは家計の、簡単なバランスシートを作ってみるといい。

 また、別の例としては、「親の資産・負債」と「子供の資産・負債」を合計して考えて、子供が相続する予定の親の資産と子供の資産の「合計」を考えて運用を検討するような発想があり得る。奨学金のような子供の負債を親が有効に利用するといった考え方が有効な場合もあるだろう。

 さまざまな場面で、柔軟に「合計思考」を使いこなして欲しい。