バリュー投資を時間分散で

 以上が、私が考える最善シナリオです。あくまで相場のイメージトレーニングの一助としてご紹介しましたが、まだまだ紆余曲折が続くと想定されます。

 市場の内部指標は、パニック相場の小康をシグナルする一方、引き続き警戒モードを解いていません。例えば、図2のVIX指数が、30~40%を境界として、少なくともこのゾーンか、それ以下の水準まで低下し、そこにとどまれなければ、市場が恐怖心を克服しつつあるとは言えません。

 何よりも、新型コロナ問題は、資本主義が発展した近現代において、人類が初めて経験するタイプの経済的ショックをもたらしています。空前の経済対策は、感染の短期終息や治療法開発があれば、過剰な需要刺激でバブルをもたらし得るものです。他方、感染拡大が長く続けば、世界経済はかつてない危険の深みにはまって低迷する恐れがあります。いわば、向こう数カ月に、風の舞う切り立った山の尾根で、何とか日なた側の道に戻れるか、凍り付いた日陰側に落ちるかという立ち位置を迎えることになります。

 3月中には、急な視界不良でいったん日陰側に滑落したものの、医療関係者や政策当局者の努力で何とか踏みとどまったところです。相場の高ボラティリティにこそ醍醐味を感じる短期投資家もいるでしょう。テクニカルな指標から、相場は底を打ったとして、あえて虎穴に入って虎児を得る投資家が現れても、違和感はありません。

 しかし、平時ではない高リスク環境であることを踏まえ、健全な資産形成を志向する中長期投資家には、リスクの抑制を旨とする行動を推奨します。新型コロナウイルス感染という問題の性質上、向こう数カ月の相場シナリオは上下に不確定でも、1~2年まで時間軸を延ばせば、治療薬とワクチンの開発を含め、解決に向かっているとの想定は妥当でしょう。

 従って、そこに向けて、安値圏での資産購入、すなわちバリュー投資を時間分散して進めるアプローチです。事態の短期沈静化のケースでも、相場に大きくは乗り遅れないよう、投資ポジションを一定量構築しておきます。解決までの道のりが長引けば、恐慌リスクも排除できないため、最善シナリオをベースに、日陰側に引き込むリスクの大きさを都度測りながら、購入の量と時間間隔を調整します。

 人類が新型コロナ問題を早晩克服すると信じるならば、時間分散のバリュー投資からスタートです。たとえ最善シナリオにおいても、買い場は繰り返し来ると考え、焦ることなく、慎重かつ堅実に投資ポジションを構築すべく、相場に臨みます。そうすれば、最速ケースで1年後、遅いケースでも3~5年後には、「相場の歴史的な暴落は、人生における数少ない買い場」だったことを実感しているだろうと、想定しています。

 経済が正常軌道に戻るメドが立てば、モメンタム投資にスタンスを変えます。ただし、それまでの経済の落ち込みの程度次第で、企業債務の調整がこじれる恐れがあります。この点は、情勢がもう少し進展してから、必要に応じて検討します。

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