投資家にとっての注目点と注意点

 パニック売り的な状況は、その時の株価がいくらかは分からないものの、いずれは落ち着く。

 投資家は、保有しているリスク資産の額が過大でない限り、株式や株式に投資する投資信託を売買すべき理由は乏しい。特に、換金売りの連鎖が起こっているような状況で、「狼狽売り(相場の急落に動揺して、慌てて売り注文を出すこと)」に加わるのは率が悪い行動だろう。余裕のある投資家が株価の下がった局面をチャンスと見て買い増しをするタイミングを探すのは悪くないが、最安値でピンポイントに買うのは難しい。「前に買うよりもずいぶん安く買えて幸いだ!」と割り切って買うのがいいだろう。

 初期の段階の積立投資家は慣れない暴落に驚いているだろうが、暴落は長期の積立投資にとっては、むしろチャンスだ。積立を止めないことが、(おそらく)ベターだろう。

 さて、新型コロナウイルスの感染がどの程度の期間と規模で影響を及ぼすかが見通せないので、直接的な実物経済に対する影響度合いが評価できないが、相場と経済の観点から見て注目点は、金融システムの危機、つまりは金融機関の破綻に問題が波及するか否かだ。

 過去の推移に照らすと、欧米の大規模な金融緩和を背景に債券利回りが低下するプロセスが訪れることが典型的な推移だが、この場合、内外の金利差の縮小を背景に円高が進む可能性があるので注意が必要だ。

 日本の金利低下余地は乏しい。円高阻止のために、日銀が「マイナス金利の深堀り」を行う可能性はあるが、できても一度だろうし、大きくは深堀りできまい。円高に対抗できる政策手段は乏しい。

 金融システムへの波及に関しては、大きな注目点が二つと、小さいけれども身近な注目点が一つある。

 注目点の一点目は、米国の社債市場だ。既にクレジット・スプレッドが大きく拡大して混乱状態にあるが、デフォルトの連鎖が起こると、企業だけでなく、金融機関にも影響が及ぶ可能性がある。エネルギー関連、航空、旅行関連などは既に要注意だが、手元の資金が少ない小売関連企業などでも破綻があるかもしれない。

 FRBはCP(コマーシャル・ペーパー)を買い入れるプランを既に発表しているが、問題は、FRBが買い入れの対象とできるような格付けの高い企業ではなく、投資適格以下(BBB格未満)の企業の資金繰りだ。

 また、銀行では、特に、欧州の銀行に注意が必要だろう。イタリア、フランス、ドイツ、スペインの銀行は、もともとリーマン・ショック後の不動産の不良債権処理が不十分だったところに、経済封鎖に近い状況が自国で起こっているのだから、状況は厳しい。もちろん、欧州発の金融不安ともなると、日本も含めて、世界に影響が及ぶ。

 身近な注意点は、地方銀行など、資金運用に困っている銀行で巨額の運用損失が起こる可能性だ。CLOは、日本の金融機関がかなり買っている。「一人、一行、1,000万円まで」の預金保険の適用上限を意識しておく方がいいだろう。

 他方、各国の経済政策はかなり大規模なものになるだろうし、そうあるべきだ。日・米・欧州いずれも中央銀行はゼロ金利と量的緩和に踏み込まざるを得ないが、それだけでは不十分だろう。リーマン・ショック後の中国経済が大規模な財政支出で比較的短期間に立ち直ったような事例が意識され、米国でも、欧州各国でも、金融緩和に加えて、財政的に大規模な後押しを行う可能性が高い。コロナ問題の収束と重なると、短期間で株価が大きく回復する可能性も視野に入れておくべきだ。

 政策論は本稿の主な対象ではないが、懸念の大きさの上では十分「リーマン級」なのだから、消費税の減税や一時停止、各種の給付金、企業の資金繰り支援などのチャネルで、財政赤字を大きく拡大することが、金融緩和の有効性を得る上でも重要だ。