コロナ・ショックの構造

 コロナ・ショックは、新型コロナウイルスの感染拡大による経済収縮懸念がきっかけとなって、形成中のバブルを崩壊させたものだと、筆者は理解している。

 形成途上だったバブルは、(1)低格付け企業も含めて社債を発行して米国企業が資金調達し、(2)信用リスクのある債務が証券化商品(CLO。サブプライム問題時のCDOと似ている)として販売され、(3)低金利で運用難に陥った金融機関がこれを購入する一方、(4)資金を調達した企業はこれを主に自社株買いに振り向けて株価を上げて経営者自身も儲けていた、といった構造のものだった。

 バブルの本体は米国の社債市場だが、これに付随して米国企業の株価も割高に形成されつつあった。

「ROE(自己資本利益率)が高く株主に報いる米国の企業経営とコーポレート・ガバナンス」が米国株の光の側面だが、その陰には、企業経営者・金融機関・機関投資家三者の欲望に基づく信用拡大とバブルの形成過程が隠れていた。まだ検証の時期ではないが、この種のガバナンスで株価がかさ上げされていた分だけ、米国の株価の下落率が大きいのかもしれない。

 ここに、新型コロナウイルスの感染拡大による経済活動の縮小懸念が衝撃を与えた。付け加えると、米国の社債の少なからぬ割合を占めるのがシェール・オイルの産油業者だが、原油価格の急落が重なって、彼らの資金繰りが悪化し、社債がデフォルトする可能性が浮上してきた。

 新型コロナウイルスの問題は、第1段階では、中国の需要の後退とサプライチェーンへの悪影響の問題だと限定的に捉えられており、世界経済に悪影響をあたえるものの(3月初旬にOECD:経済協力開発機構は2020年の世界経済の成長率を0.5%程度下方修正した)、特に米国の経済は成長を保つのではないかと考えられていて、株価への影響は軽微だった。

 しかし、第2の段階として、ウイルス感染が欧米に広がったことで、欧州と米国の人の往来が制約されたり、各国内で人の行動に制限が加わったり、こうした制約がどのくらいの期間に及び、経済にどのくらいの悪影響を及ぼすのかが見通せない「恐怖」に近い心理が広がって株式等のパニック的な売りにつながった。

 今回の状況は、リーマン・ショックが金融機関の資産の毀損(きそん)から発生して実物経済に悪影響を及ぼす過程をたどったのと異なり、主として企業の業績悪化と資金繰りへの懸念から問題が発生している点が異なる。

 ただし、今後社債による資金調達ができなくなった企業が、「コロナ不況」による手元資金の枯渇で破綻するケースが続出すると、金融機関のバランスシートにも毀損が生じて、金融システムも流動性の危機に陥り、リーマン・ショック時と同様のプロセスに突入し、金融システムに起因するいわば二次被害が発生する可能性がある。

 本稿の執筆時点(2020年3月22日)では、手元の「現金」、特に「米ドルの現金」を確保することへの需要が高まって、株式だけでなく、安全資産とされる金も、あるいは米国債も含む債券も売られることがあるような状況で、FRBの緊急利下げで米国の金利が低下しているにも関わらずドル/円の為替レートは円安になっている。暴落時の特にパニック売りの局面でよく使われる相場用語で言うと「キャッシュ・イズ・キング」の状況だ。