カードを残したい財務省。財政出動のきっかけは?

 日銀は東日本大震災直後の2011年3月14日には総額15兆円の資金供給枠を用意して調達希望のあった9兆円近くを供給。2008年9月のリーマンショック後も連日の緊急資金供給で国内の金融システムを守った。一方、今回の株価急落局面では日本円や米ドルの資金調達に困る金融機関はなく、2月25日の米ドル資金供給はわずか100万ドルだった。

 2月27日に大津市で記者会見した片岡剛士審議委員は「必要であれば追加的な措置を講じていく」と強調し、景気の下押し圧力には追加金融緩和など政策を総動員して対抗する用意があるとの日銀政策委員会の共通見解を披露した。

 そのうえで、新型肺炎の感染が拡大しているが「追加緩和をすぐにやるべき局面ではないような気がする」と私見を述べている。短期金融市場が安定しているため、景気動向への影響を分析する時間的な余裕があるとみているようだ。

 一方、微妙なのは財務省。麻生太郎財務相は3者会合直前の2月25日午前の閣議後会見で「今の段階で総合経済対策を今すぐ考えているわけではない」「今の段階で何のかんのということを言える段階にはない」と、財政出動には消極的な考えを示した。昨年10月の消費増税に合わせて大規模な景気対策を打った直後だけに、与党の一部で強まる補正予算編成を求める意見をけん制する意図があったとみられる。

 政府は2月20日の月例経済報告で「緩やかに回復している」と2018年1月から続く景気判断を維持した。しかし、昨年10-12月期のGDP(国内総生産)が実質ベースで年率6.3%減と大幅に落ち込み、今年1-3月期も新型ウイルス問題を受けた大型イベントの中止や外国人訪日客の大幅減少、部品供給網の寸断による工場の操業停止などで「回復」とはほど遠い厳しい数字が予想される。

「政府が実態に合わせて景気判断を下方修正すれば当然、次は政治サイドから景気対策を求める声が上がってくる」(経済官庁幹部)。麻生財務相も武内財務官も早急な経済対策に言及しなかったのは、景気判断の下方修正後のために財政出動という貴重な政策カードを温存する狙いがあるのではないか。

 蛇足だが、財務省など緊急3者会合のあった2月25日、衆院議員会館で新型肺炎の発症騒動があった。報道各社が確認に走ったが、結局は事実確認できなかったようだ。