新型コロナウイルスの感染者数増加が止まらず、日経平均の下げ幅が一時1,000円を超えた2月25日夕方、財務省、金融庁、日銀の3者が財務省内で臨時会合を開いた。緊急会合と聞けば大がかりな対策を期待したくなるが、投資家の動揺を防ぐための政策当局によるパフォーマンスの色合いが濃く、今回も例外ではなかった。

 会合には財務省次官級の武内良樹財務官のほか、遠藤俊英金融庁長官、前田栄治日銀理事が出席した。会合後、武内財務官は世界的な感染拡大を踏まえ、「市場の不安感が以前より大きくなっている」と指摘。その上で「緊張感を持って市場動向を見守ることで一致した」と記者団に話した。市場参加者と問題意識を共有していることをアピールし、政府・日銀の協調体制を確認するのが3者会合のお約束だ。

 米中貿易摩擦のあおりで円高が進んだ昨年6月21日にも3者会合が開かれた。そこでも武内氏の前任の浅川雅嗣財務官が「緊張感を持って注視していきたい」と述べたが、その後はこれといった円高対策は打たれていない。今回も新型ウイルスに対する市場の不安は大きいが、決まり文句の「緊張感を持って」で対処可能な程度という認識なのだろう。

 財務省、金融庁、日銀の3者は現場レベルで密接に連絡を取り合いながら、危機の芽を摘んできた。

 たとえば日銀。最も重視するのが「金融システムの安定」である。これには銀行など金融機関同士の円滑な資金決済から国民の経済活動に必要なお金の受け渡しまでが含まれる。

「非常時」に日銀が必ずチェックするのは銀行など短期金融市場の動向。1つの金融機関が資金調達に失敗し、金融システム全体が機能不全に陥る事態を避けるため、短期金融市場の資金の過不足を職人芸レベルで調節している。

カードを残したい財務省。財政出動のきっかけは?

 日銀は東日本大震災直後の2011年3月14日には総額15兆円の資金供給枠を用意して調達希望のあった9兆円近くを供給。2008年9月のリーマンショック後も連日の緊急資金供給で国内の金融システムを守った。一方、今回の株価急落局面では日本円や米ドルの資金調達に困る金融機関はなく、2月25日の米ドル資金供給はわずか100万ドルだった。

 2月27日に大津市で記者会見した片岡剛士審議委員は「必要であれば追加的な措置を講じていく」と強調し、景気の下押し圧力には追加金融緩和など政策を総動員して対抗する用意があるとの日銀政策委員会の共通見解を披露した。

 そのうえで、新型肺炎の感染が拡大しているが「追加緩和をすぐにやるべき局面ではないような気がする」と私見を述べている。短期金融市場が安定しているため、景気動向への影響を分析する時間的な余裕があるとみているようだ。

 一方、微妙なのは財務省。麻生太郎財務相は3者会合直前の2月25日午前の閣議後会見で「今の段階で総合経済対策を今すぐ考えているわけではない」「今の段階で何のかんのということを言える段階にはない」と、財政出動には消極的な考えを示した。昨年10月の消費増税に合わせて大規模な景気対策を打った直後だけに、与党の一部で強まる補正予算編成を求める意見をけん制する意図があったとみられる。

 政府は2月20日の月例経済報告で「緩やかに回復している」と2018年1月から続く景気判断を維持した。しかし、昨年10-12月期のGDP(国内総生産)が実質ベースで年率6.3%減と大幅に落ち込み、今年1-3月期も新型ウイルス問題を受けた大型イベントの中止や外国人訪日客の大幅減少、部品供給網の寸断による工場の操業停止などで「回復」とはほど遠い厳しい数字が予想される。

「政府が実態に合わせて景気判断を下方修正すれば当然、次は政治サイドから景気対策を求める声が上がってくる」(経済官庁幹部)。麻生財務相も武内財務官も早急な経済対策に言及しなかったのは、景気判断の下方修正後のために財政出動という貴重な政策カードを温存する狙いがあるのではないか。

 蛇足だが、財務省など緊急3者会合のあった2月25日、衆院議員会館で新型肺炎の発症騒動があった。報道各社が確認に走ったが、結局は事実確認できなかったようだ。