アドバイスの経済価値は?

 さて、今回のようにアドバイスした場合に、その前と後の相談者のポートフォリオの経済価値の差がどのくらいになるのかだ。

 前提条件で、相談者は「5%の期待リターンで20%のリスクを持つリスク資産を50%持っていい」と考えているのであった。

 この条件から相談者の効用関数(U)のリスク拒否度(λ)を計算するとλ=0.0125となる。すると、相談前の効用は以下の通りだ。

【相談前の効用】
効用(U)=(期待リターン)−(リスク拒否度)×(リスク)2
       =1.66 − 0.0125×11.52=0.006875

【相談後の効用】
 相談後の効用を計算すると以下のようになる。
効用(U)=1.92 − 0.0125×82=1.12

 効用は、リスクのペナルティを調整した(リスクのない)リターンの価値との同等物だと考えられる。相談後と相談前の効用の差は1.113125%となる。

 相談者の運用資産額は1億円なので、相談結果を反映させることによって、その約1.11%、つまり111万円相当の効用増を次の1年から毎年得ることができる。リターンとリスクの両方を改善しており、これだけの効果が出る。

 付け加えると、相談者は期待リターンが増えるならもう少しリスクを取ることができるので、この相談の経済価値はさらにもう少し改善することができるはずだ。

 さて、読者は、この相談に対して、いくらの対価が正当だと思われるか。

 考え方はいろいろだろう。

 対価の設定の仕方も、「考えてアドバイスしたのは一回だから一回に適正額を請求するのがいい」という考え方もあるし、「メリットは継続的なのだから、顧問契約などの下で継続的なフィーを設定するといい」という方針もあるだろう(筆者個人は、前者がややいいと思っている)。

 例えば、「改善は今年得られて、さらにその後も毎年得られるのだし、アドバイザーへの報酬は、一年分の改善効果の2割である22万円程度は(111万円の20%)あってもいいのではないか」という意見があるとすると、読者はどう思われるか。

 筆者個人は、アドバイスの対価の計算としては「まあまあ妥当」ではないかと思う。

 これを「高い!」と言う人は、相談前の状態がどれだけダメで、しかもいくらの手数料を金融機関に払っていたのかについて、考えてみてほしい。対面営業の金融機関の言いなりになっているとこの例のような状態に陥ることが少なくないし、その状況を改善できることの経済価値は大きい。

 例えば、FPは、相談時間一時間あたり1万円といった手間賃の報酬の外に、「アドバイスが改善する経済価値から計算される対価」を請求してもいいのではないだろうか。こうした考え方で適正な対価が得られるなら、FPは相談にかこつけて生命保険などの金融商品を売ってキックバックを得るような汚いビジネス(利益相反のあるビジネスという意味だ)に手を染めなくとも、堂々と正当な対価が得られるのではないだろうか。