人類と新型ウイルスとの闘いは終わらない

 医学の進歩により、人類はさまざまな「死に至る病」に治療の道を開いてきました。それでも、今でも治療が難しいといわれる分野が3つあります。ガン・ウイルス性疾患、アレルギー性疾患です。

 細菌が引き起こす疾患は、抗生物質などを使って、ほぼ治療可能となりました。ところが、細菌ではなく、ウイルスが引き起こす疾患は、治療が困難です。細菌もウイルスも、生物です。細菌は人間の細胞外にいるので抗生物質などで治療できますが、ウイルスは細胞内に入り込むので抗生物質が効かず、治療が困難です。

 それでも、人類は、バイオ薬やインターフェロンなどさまざまな薬剤を開発して、ウイルス性疾患に治療の道を開いてきました。ただし、ウイルスとの闘いはけっして終わりません。ウイルスは「生物と無生物のあいだ」(生物学者、福岡伸一氏の著書名)と言われるほど、単純構造で、簡単に変異します。そのため、今まで無かった新型ウイルスが発生して流行することは、これから何度でも繰り返すでしょう。

 治療に有効な特定の薬剤が長く使い続けられると、その薬剤に耐性を持つウイルスが増殖します。こうして、既存の薬剤が効かない新型ウイルスが現れて流行することが、今後、何回も繰り返すでしょう。

毒性の強いウイルス性疾患は医療の発展した国では拡散しにくい

 中国武漢で発生した新型肺炎は、中国で死者が9人出ており、毒性の強さが不安を強めています。エボラ出血熱ほどではありませんが、通常のウイルス性疾患とは異なる対策が必要です。
ただし、1つわかっていることがあります。毒性が強く、感染した個体を短期に死に追いやってしまうウイルスは、ある意味、欠陥品だと言うことです。感染した個体が死亡すれば、ウイルスも死滅します。そうならないように、感染した個体を発病させず、何十年も潜伏していられることが、ウイルスにとって都合が良いわけです。

 潜伏期間が短く、毒性の強いウイルスは、先進国では感染が広域に拡大しにくいと言えます。発病した患者は治療のために隔離されることが多いからです。発病前の潜伏期間が長くないと、大規模には拡散しません。

 エボラ出血熱のように毒性が強く、感染後すぐに治療しないと死に至る病は、先進国では大流行しにくいということです。

 エイズウイルスや、C型肝炎ウイルスのように、潜伏期間が何十年と長いものの方が、感染が拡大しやすいということです。ただ、近年の医学の進歩で、そうしたウイルス性疾患でも、発病を防ぐ有効な治療薬が開発されています。

新型肺炎への不安はしばらく強まるが、いずれ終息に向かうと予想

 株式市場で、新型肺炎への不安は、しばらく強まるでしょう。ただし、その後、対策や治療薬が浸透すれば、いずれ終息に向かうと考えています。後から振り返って、世界景気への影響は限定的になると、予想しています。

 2002~2003年に中国でSARSが流行したときは、感染者の把握が遅れたために、大流行となりました。今回、中国政府は、新型肺炎の感染者を正確に把握し、対策を講じる見込みです。SARS流行の経験を生かし、今回の新型肺炎では大流行を阻止できることを祈っています。

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