新型コロナウイルスによる肺炎への恐怖が広がる
中国・武漢市で新たに発生した新型コロナウイルスの感染が広がっています。中国政府は22日、中国での感染者は440人、死者9人と発表しました。動物が発生源と考えられていますが、人から人へ感染している証拠が存在すること、潜伏期間が9日程度と長くなることがあることから、「潜伏期間(発病前)の感染者から感染が広がる」懸念が出ています。
タイ(2人)、米国(1人)、日本(1人)、韓国(1人)、台湾(1人)でも感染者が見つかっています。WHO(世界保健機構)は、「国際的に懸念される緊急事態」に該当するか、22日にも緊急会合を開いて判断します。
一部では、2002~2003年に流行したSARS(重症急性呼吸器症候群)と同規模の被害が出ると、悲観的な見方も出ています。SARSは中国広東省を起源としたものでした。
春節に影響?懸念高まり、インバウント関連株が売られる
中国では1月24日(金)から1月30日(木)まで、春節(旧正月)と呼ばれる大型連休が始まります。春節の間、中国では、中国国内および海外への旅行者が増加し、消費が盛り上がります。人気の旅行先は、タイ、日本などです。日本にとって、インバウンド消費(訪日外国人による消費支出)を獲得する重要なタイミングでもあります。
ところが、新型肺炎の影響で、今年は中国の春節消費が低調になる懸念が出ています。中国の景気動向を見る上で、春節の消費はきわめて重要です。景気失速懸念が強まっている中国で、春節消費が不振となれば、景気の持ち直しに悪影響が出ます。
日本にとっては、インバウンド需要が低下する懸念が出ています。こうした不安を受けて、最近、資生堂や三越伊勢丹HDなどインバウンド関連株が売られました。それだけでなく、新型肺炎への懸念で、一時世界的に株が売られました。新型肺炎が、アジアの景気、ひいては世界の景気に悪影響を与えることが懸念されためです。
2014年にエボラ出血熱(当時の呼び名)ショックで世界株安
まだ、新型コロナウイルスの感染実態は正確にはわかっていません。また、これからどこまで感染が拡大するか予想するのも困難です。そうした不安から、短期的に世界の株がさらに動揺する可能性もあります。
ただし、私は、あくまでも個人的見解ですが、長期的な視点に立てば新型ウイルスが世界景気や世界の株式に与える影響は、限定的だと思います。その理由を詳しくお話しする前に、まず、2014年にエボラ出血熱(当時の呼び名、現在は「エボラウイルス病」という)で世界的に株が売られた時の経験を話します。
まず、2014年の日経平均株価チャートをご覧ください。
2014年の日経平均株価:2013年末~2014年12月末
2014年を簡単に振り返ります。2014年は、4月に消費税引き上げ(5%→8%)があったため、4~6月に日本の消費が落ち込み、景気に停滞感が広がった年です。ただし、景気停滞は短期で、日本の景気は年後半にかけて持ち直しました。後から振り返れば、景気後退には至らず、景気拡大が続いた年です。
この年の日経平均は、1月から4月まで、消費増税後の景気停滞などを織り込んで下落しました。ただし、年後半は、景気停滞からの回復を織り込みつつ、日経平均は上昇しました。
ところが、年後半、10月に日経平均は一時急落しています。エボラ出血熱が世界に拡大する不安、世界景気が悪化する不安などから、世界的に株が急落し、日本株にも外国人投資家の売りが増えました。
ただし、10月の下落は一時的でした。景気回復が続いたこと、日銀が大規模な追加金融緩和を発表したことなどを受けて、11月には世界的に株が急上昇、日経平均も外国人による買い戻しで急騰しました。
エボラ出血熱は毒性が強く、感染して早期治療しないと致死率の高い疾患です。2014年6月より西アフリカで大流行し、欧州・米国でも感染者が出ました。エボラ出血熱への 恐怖から、欧米で一時外出を控える動きが広がり、それが世界的な景気悪化につながるとの懸念も出ました。
日本では感染者は見つかりませんでしたが、日本でもエボラ出血熱への恐怖が広がっていました。「もし日本で感染者が出れば、日本の消費がさらに落ち込み、日経平均は1,000円以上下がる」という人もいました。
アフリカで多数の死者が出たエボラ出血熱ですが、恐怖のピークは2014年10月でした。その後、感染防止策の徹底や、治療薬の開発が進み、感染は徐々に終息に向かいました。後から振り返れば、エボラ出血熱が、世界全体の景気に与えた影響は限定的でした。
人類と新型ウイルスとの闘いは終わらない
医学の進歩により、人類はさまざまな「死に至る病」に治療の道を開いてきました。それでも、今でも治療が難しいといわれる分野が3つあります。ガン・ウイルス性疾患、アレルギー性疾患です。
細菌が引き起こす疾患は、抗生物質などを使って、ほぼ治療可能となりました。ところが、細菌ではなく、ウイルスが引き起こす疾患は、治療が困難です。細菌もウイルスも、生物です。細菌は人間の細胞外にいるので抗生物質などで治療できますが、ウイルスは細胞内に入り込むので抗生物質が効かず、治療が困難です。
それでも、人類は、バイオ薬やインターフェロンなどさまざまな薬剤を開発して、ウイルス性疾患に治療の道を開いてきました。ただし、ウイルスとの闘いはけっして終わりません。ウイルスは「生物と無生物のあいだ」(生物学者、福岡伸一氏の著書名)と言われるほど、単純構造で、簡単に変異します。そのため、今まで無かった新型ウイルスが発生して流行することは、これから何度でも繰り返すでしょう。
治療に有効な特定の薬剤が長く使い続けられると、その薬剤に耐性を持つウイルスが増殖します。こうして、既存の薬剤が効かない新型ウイルスが現れて流行することが、今後、何回も繰り返すでしょう。
毒性の強いウイルス性疾患は医療の発展した国では拡散しにくい
中国武漢で発生した新型肺炎は、中国で死者が9人出ており、毒性の強さが不安を強めています。エボラ出血熱ほどではありませんが、通常のウイルス性疾患とは異なる対策が必要です。
ただし、1つわかっていることがあります。毒性が強く、感染した個体を短期に死に追いやってしまうウイルスは、ある意味、欠陥品だと言うことです。感染した個体が死亡すれば、ウイルスも死滅します。そうならないように、感染した個体を発病させず、何十年も潜伏していられることが、ウイルスにとって都合が良いわけです。
潜伏期間が短く、毒性の強いウイルスは、先進国では感染が広域に拡大しにくいと言えます。発病した患者は治療のために隔離されることが多いからです。発病前の潜伏期間が長くないと、大規模には拡散しません。
エボラ出血熱のように毒性が強く、感染後すぐに治療しないと死に至る病は、先進国では大流行しにくいということです。
エイズウイルスや、C型肝炎ウイルスのように、潜伏期間が何十年と長いものの方が、感染が拡大しやすいということです。ただ、近年の医学の進歩で、そうしたウイルス性疾患でも、発病を防ぐ有効な治療薬が開発されています。
新型肺炎への不安はしばらく強まるが、いずれ終息に向かうと予想
株式市場で、新型肺炎への不安は、しばらく強まるでしょう。ただし、その後、対策や治療薬が浸透すれば、いずれ終息に向かうと考えています。後から振り返って、世界景気への影響は限定的になると、予想しています。
2002~2003年に中国でSARSが流行したときは、感染者の把握が遅れたために、大流行となりました。今回、中国政府は、新型肺炎の感染者を正確に把握し、対策を講じる見込みです。SARS流行の経験を生かし、今回の新型肺炎では大流行を阻止できることを祈っています。
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