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 米国が2018年7月に対中制裁関税を発動して以来、『米中貿易摩擦』は激化の一途をたどりました。追加関税の応酬が続き、『米中貿易摩擦』 は今年の経済の重石となっていました。加えて、米中協議は交渉に対する楽観と失望が繰り返されたため、都度、金融市場を動かす材料となりました。しかし10月の閣僚級協議を経て12月には第1段階の合意に達するなどの進展が見られ、先行きにやや明るさが見えてきました。

【ポイント1】第1段階の「合意」発表

トランプ米大統領の言動で二転三転

 2019年は、まず、3月にも米中首脳会談で合意に達するとの報道があるなど、おおむね楽観的な見方が多く聞かれましたが、5月5日、トランプ米大統領が突然更なる追加関税の拡大をツイートし、金融市場はリスク回避に転じました。その後も6月末の大阪での米中首脳会議を受けた休戦合意、8月の追加関税発表と、同様のことが繰り返され、市場では都度動揺が見られました。

 交渉の長期化が懸念されましたが、10月に第1段階の合意が報道された後、12月13日に両国が合意に達したことが発表されました。詳細は現在も協議中で、両国の説明には食い違いが見られますが、第1段階の合意文書の署名は年明け1月をめどに進められると見られ、米中の緊張が緩和に向かい始めたとは言えそうです。

【ポイント2】追加関税は見送り、一部減免

『米中貿易摩擦』は休戦の様相

 12月13日の発表によると、米国側は9月の第4弾追加関税1,100億米ドル分の品目へ課した15%の税率を7.5%とし、12月15日に予定していた第4弾の残り1,600億米ドル分は見送りました。知的財産権の取り扱い等についても合意に至りました。

【今後の展開】貿易協議は長期化の見込み

 第1段階の合意文書が署名・履行されれば、『米中貿易摩擦』では初めて関税が減免されます。第2段階の交渉が進めば、米国の制裁関税の段階的な撤廃も見込まれます。ただし米国には、ハイテク産業の覇権を巡り中国をけん制する目的や、来年の大統領選挙を控え、有権者に成果を示したい意図があります。他方中国には、世界の製造業大国を目指し、重点産業であるハイテク産業を育成する目的や、米国と対等に交渉する「強い習政権」を示したい事情があります。そのため交渉には相応の時間を要すると見られます。

 市場では両国の歩み寄りを評価しつつも、テールリスク(通常、確率的には極めて低いが想定外の暴落が発生するリスク)が警戒されています。大統領選を控え、トランプ米大統領が一時的に米経済や市場よりも有権者の支持を優先し、中国に対し強硬姿勢をとる可能性が残るためです。大統領選に向けトランプ米大統領の動向には一層の注意が必要です。