3.長期契約価格は年率で一桁台の上昇が続くと予想

 半導体用シリコンウェハメーカー各社は、顧客である半導体デバイスメーカーと納入価格に関して取り決めをしています。詳しい契約内容は各社とも非開示ですが、価格には1年以上にわたって各年につき一定の納入価格を決める「長期契約価格」と、四半期ごとにその時々の需給を反映して決める「スポット価格」の2種類があります。多くのシリコンウェハメーカーが出荷数量の多くを長期契約価格で販売しています(長期契約は最長5年になります)。

 信越化学工業は300mmウェハの95%以上(2020年3月期)、全体(200mm、150mm以下を含む)でも推定約80%の製品が長期契約価格で販売されています。SUMCOは300mmウェハの約80%(連結ベース、子会社のFSTを含む)が長期契約価格によって販売されており、全体では推定65~70%が長期契約価格による販売と思われます。

 両社の長期契約比率に差があるのは、経営上の考え方の違いです。信越化学工業は長期契約比率を100%近くまで高めることによって経営上の不確実性を減らし、継続的な設備投資をし易くしようと考えています。このため、信越化学工業の半導体シリコン事業は中長期で安定的な成長が期待できます。また、ウェハのサイズ、品種毎に細かく価格設定を行っていることもあって、半導体シリコン事業の営業利益率は、2019年3月期34.7%とSUMCOの2018年12月期26.2%を上回っています。

 一方で、SUMCOは300mmウェハの場合で約20%をスポット価格で販売し、好況時に超過収益を得たいと目論んでいます。逆に不況時にはこの約20%分が業績悪化の要因になります。このため、業績には波があります。SUMCOに投資する場合は投資タイミングを重視する必要があると思われます。

 長期契約価格は、300mmウェハについて業界全体では、2016年末の価格に対して2017年末は約20%引き上げ、2018年末は更に約20%引き上げたもようであり、2019年は2018年12月末比数%(約5%?)上昇すると思われます。なお、すでに新しい半導体ブームが始まっていますが、SUMCOによればロジック向けウェハは堅調に推移しており、今後は2020年後半以降にメモリ向けウェハが回復に転じ、2022年には再び需給が逼迫する懸念があります。

 そのため、いわゆるグリーンフィールド投資(工場新設。これに対して工場の増強をブラウンフィールド投資という)の可能性が出てきますが、SUMCOによれば、グリーンフィールド投資を行うには、300mmウェハの価格を2016年末比70~75%、2019年末比20~25%引き上げる必要があります。信越化学工業は、顧客の長期契約分について設備の逐次増強を行っていますが、同社もグリーンフィールド投資への姿勢は価格次第と思われます。

4.シリコンウェハ関連銘柄

信越化学工業

1)2020年3月期2Qは2%減収、10%営業減益

 2020年3月期2Q(2019年7-9月期)は、売上高4,003億3,100万円(前年比1.9%減)、営業利益1,030億3,000万円(同9.5%減)となりました。

 セグメント別に見ると、最も営業利益が大きい半導体シリコン事業は、売上高974億円(前年比1.0%増)、営業利益350億円(同4.4%減)と小幅営業減益となりました。今1Qの売上高990億円(同8.9%増)、営業利益394億円(同31.3%増)と比較しても減収減益となりました。シリコンウェハの出荷数量が前年比約10%減、今1Q比では微減となったためです。

 ただし、ロジック、マイコン向けに使うエピタキシャルウェハの出荷数量が過去最高になりました。メモリ向けウェハの動きは不安定で、まだ回復していないようですが、NAND、DRAM市場が回復へ向けた動きを見せています。メモリメーカーのウェハ在庫も減少し始めたもようです。

 また長期契約価格は、2020年は2019年比小幅値上げで妥結したもようです。現在2021年分の長期契約価格を交渉中ですが、下がることはないと思われます。

 このようにシリコンウェハ市場では回復へ向けた動きが出ています。

 それ以外のセグメントでは、塩ビ・化成品事業が、売上高1,303億円(前年比6.1%減)、営業利益263億円(同21.0%減)となりました。塩ビ出荷数量は堅調でしたが市況下落が響いたもようです。

 シリコーン(自動車部品、建材、化粧品など様々な分野に使われる)も0.3%増収、2.6%営業減益と小幅減益となりました。出荷は順調でしたが、汎用品の市況下落が響きました。

 電子・機能材料事業は、3.7%減収、7.7%営業減益となりました。半導体製造ラインで使うフォトレジスト、マスクブランクスは堅調でしたが、光ファイバー用プリフォーム(光ファイバーの材料)の市況が厳しく、これが減益要因となったもようです。

 今2Qはほぼ全ての事業が営業減益となりました。

表4 信越化学工業の業績

株価    11,960円(2019/12/19)
発行済み株数    415,724千株
時価総額    4,972,059百万円(2019/12/19)
単位:百万円、円
出所:会社資料より楽天証券作成
注1:発行済み株数は自己株式を除いたもの。
注2:当期純利益は親会社株主に帰属する当期純利益。

表5 信越化学工業のセグメント別業績:通期ベース

単位:億円
出所:会社資料より楽天証券作成。予想は楽天証券。
注:億円未満を切り捨てたため合計が合わない場合がある。

表6 信越化学工業のセグメント別業績:四半期ベース

単位:億円
出所:会社資料より楽天証券作成。
注:億円未満を切り捨てたため合計が合わない場合がある。

2)今期会社予想営業利益は前年比横ばいだが、若干上乗せも。来期はシリコンウェハの本格回復に期待したい。

 会社側では2020年3月期業績を、売上高1兆5,500億円(前年比2.8%減)、営業利益4,050億円(同0.3%増)としています。

 半導体シリコン事業については、会社側は今4Q(2020年1-3月期)から来上期にかけての業績を懸念しているもようです。メモリ向けがまだ回復していないこと、産業向け、自動車向けに使われる200mmウェハの市況悪化を懸念しているもようです。

 ただし、これまで見てきたように、シリコンウェハはロジック向けに続きメモリ向けも近い将来回復が予想されること、300mmの長期契約価格が堅調に上昇することが期待できることから、半導体シリコン事業は来期から本格回復すると予想されます。楽天証券では、半導体シリコン事業の業績を、2020年3月期売上高3,950億円(前年比3.9%増)、営業利益1,450億円(同9.9%増)、2021年3月期売上高4,200億円(同6.3%増)、営業利益1,670億円(同15.2%増)と予想します。

 塩ビ・化成品事業などの事業は、緩やかな回復が期待されます。

 このような見方により、楽天証券では、信越化学工業の全社業績を、2020年3月期売上高1兆5,800億円(前年比0.9%減)、営業利益4,080億円(同1.1%増)、2021年3月期売上高1兆6,200億円(同2.5%増)、営業利益4,400億円(同7.8%増)と予想します。

 今後6~12カ月間の目標株価を1万5,000円とします。2021年3月期楽天証券予想EPS817.9円に、半導体シリコン事業の再成長を評価して想定PER15~20倍を当てはめました。投資妙味を感じます。