「ドルは十分に落ちた」の重み
さて、余談ですが、ボルカー元FRB(米連邦準備制度理事会)議長(1979~1987年在任)訃報のニュースが流れてきました。筆者にとってFRB議長といえば、グリーンスパンでもなくバーナンキでもなくボルカーです。ボルカー氏は2桁台のインフレを3%台まで抑え込んだインフレファイターとして有名ですが、筆者にとっては為替にまつわるエピソードの方が鮮明に記憶に残っています。
ボルカー氏は身長2メートルの大男です。1982年、私が為替ディーラーの駆け出しの頃、米ニューヨークの講演会会場でボルカー氏とすれ違ったことがあるのですが、ズボンのベルトの位置が筆者の顔の位置だったのには驚きました。そして同氏への驚きは体格の大きさだけでなく、言葉の重みが鮮烈に記憶に刻まれていることです。
1985年のプラザ合意の後、ドル高是正のためドルは一直線に落ちていったのですが、落ち過ぎだとの懸念が米国に広がる中で、翌年1986年2月、この下落を止めたのはボルカー氏の一言でした。
“Dollar has fallen enough”(ドルは十分に落ちた)
この一言でドルは反転しました。その時のヘッドラインも、マーケット参加者の一斉になされたドル買いも鮮明に覚えています。介入でドル安を止めたのではなく、彼の神通力でドル安を止めました。トランプ米大統領が、ドルは強すぎるといっても最初の頃は反応していましたが、今ではほとんどマーケットは反応しなくなりました。言葉の重みが圧倒的に違います。インフレファイターの実績があったからこそ成せる業だったのでしょうが、強烈な出来事でした。