2.今回の任天堂サイクルのピークは中国販売次第

1)2019年12月10日、「ニンテンドースイッチ」中国で発売へ

 次に任天堂です。任天堂と中国事業の提携先であるテンセントは、12月4日付けで、中国においてニンテンドースイッチを12月10日から発売すると発表しました。ハードの希望小売価格は2,099元(1元=15円として約3万2,000円)、12月10日発売のソフトは「NEWスーパーマリオブラザーズUデラックス」のみで価格は299元(同約4,500円)です。また、「マリオカート8デラックス」「スーパーマリオオデッセイ」の2ソフトを今後数週間のうちに発売する予定です。

 今後は、2020年中に任天堂製、サードパーティ製含めて10~20作を発売すべく認可を申請しているもようです。ニンテンドースイッチライトの販売認可も下りたため、販売準備に取り掛かっています(発売日は未定)。

2)中国市場の開拓は困難が大きいかもしれない

 中国は世界最大のゲーム市場です。少し古い数字ですが、2016~2017年で5億~6億人のゲーム人口があり、このうち半分近いプレイヤーが年間8,000円以上をゲームに使っています。ただし、ゲームのジャンルはPCオンラインゲームとスマートフォンゲームが大半です。家庭用ゲームはソニーのPS4が進出しているものの大きな勢力にはなっておらず、苦戦しています。

 ソニーに限らず中国では外国メーカーが苦戦していますが、理由の一つが検閲制度です。ゲーム機、ゲームソフトともに、発売にあたって当局により1機種、1作ずつ検閲を受けます。この検閲は何段階にも分かれた複雑なものです。中国企業のゲームソフトは比較的楽にパスしますが、海外メーカーは4~6カ月かかります。ゲームの種類がPCオンラインゲームとスマホゲームにほぼ限られていること、合格するのに長期間かかる検閲制度があることが、海外メーカーにとって大きな参入障壁になっているのです。

 中国では2012年頃からハイスペックで比較的低価格のスマートフォンが普及し始めましたが、それらをプラットフォームとしたスマホゲームが増えました。また、パソコンゲームはスマホゲームが流行る以前から遊ばれていました。いずれもスタンドアロン型のゲームではなく、オンラインゲームとしてです。その意味で、中国ゲーム市場は過去7年以上の間、独自の進歩を遂げてきたのです。

 このような実態を見ると、中国市場での家庭用ゲームの開拓は容易ではないと思われます。おそらく高く強固な「文化の壁」があるはずです。要するに、日米欧でヒットしたゲームソフトが中国市場で売れるとは限らないということです。このことは、アメリカでヒットしたソフトが日本で売れるとは限らず、日本でヒットしたソフトがアメリカでヒットするとは限らないという、これまでの経験を振り返ればわかります。「文化の壁」というのは、ゲームのようなエンタテインメントビジネスにとって実に厄介なものなのです。

 ただし、ユーザー約6億人の大市場ですから、そのうちの数%、1,000万人以上のゲームユーザーを家庭用ゲームに振り向かせることができるならば、任天堂の将来にとっては大きな成果になると思われます。

3)中国市場の開拓が長引くなら、今回の任天堂サイクルは天井が見えてきた

 中国市場の開拓に時間がかかりそうな場合は、現在の任天堂の楽天証券業績予想は変更しません(表3、グラフ2~4の予想に中国市場は織り込んでいません)。その場合、今回のニンテンドースイッチのサイクルは、ハードの単年度販売台数は今期2020年3月期がピークで、ソフトのピークは2021年3月期または2022年3月期となり、業績もソフトのピークと同じ時期にピークを付けると予想されます。

 中国市場の開拓に時間がかかり、業績の上乗せ要因としては当面インパクトが乏しいということになると、今回の任天堂サイクルの天井が見えてくることになります。その場合は、任天堂株の歴史を振り返ると、株価の天井も近いことになります。現在のところ、楽天証券の今後6~12カ月間の目標株価は5万円です。

 ただし、中国市場の開拓が今後2~3年で進む可能性があるのであれば、今回の任天堂サイクルのピークが1~2年先送りになる、すなわち、2022年3月期~2024年3月期が業績のピークとなる可能性があります。中国での販売好調を理由にした今期会社業績予想の上方修正もあり得ます。その場合、株価も5万円以上の水準に上昇する可能性があります。

 当面は、12月10日からの中国におけるニンテンドースイッチの売れ行きに注目したいと思います。

(任天堂の業績の詳細は、楽天証券投資WEEKLY2019年11月8日号を参照してください。)

表3 任天堂の業績

株価    43,680円(2019/12/5)
発行済み株数    119,124千株
時価総額    5,203,336百万円(2019/12/5)
単位:百万円、円
出所:会社資料より楽天証券作成
注1:発行済み株数は自己株式を除いたもの。
注2:当期純利益は親会社株主に帰属する当期純利益。

グラフ2 任天堂のゲームサイクル:据置型ハードウェア

単位:万台
出所:会社資料より楽天証券作成、予想は楽天証券

グラフ3 任天堂のゲームサイクル:携帯型ハードウェア

単位:万台
出所:会社資料より楽天証券作成、予想は楽天証券

グラフ4 任天堂のゲームサイクル:据置型ソフトウェア

単位:万本
出所:会社資料より楽天証券作成、予想は楽天証券
注:ニンテンドースイッチ用ソフトにはライト用も含まれる