【ケース3】50歳のサラリーマンC氏の場合
ある企業に勤める50歳のC氏は、手取り年収が600万円、手持ちの資産が2,400万円ある。年収は退職までおおむねこれくらいだろうが、退職金は期待できない。ねんきん定期便を見ると、年金額が17万円くらいあるが、年金は今後減額が続きそうなので、毎年の年金額として180万円(一月15万円×12カ月)を見込む。彼は、賃貸暮らしなので、老後の生活比率は今後の現役時代の0.8倍でいきたいと考えている。現役期間を65歳になるまでの15年間、老後を95歳になるまでの30年間とする場合、彼は、どう暮らすといいのか。
早速計算してみよう。
分子は、0.8×600万円−180万円−2,400万円/30年=220万円だ。分母の方は、(15年/30年+0.8)×600万円=780万円だ。必要貯蓄率は、約28.2%にもなる。毎月14万円強の貯蓄に励むと辻褄(つじつま)が合うので、むろん不可能ではないのだが、「これは、厳しい!」と思う方が多いのではないか。
しかし、例えば、そこそこに稼いでいて金融資産があっても、例えばコストの掛かる都会暮らしで、現役時代と変わらない生活をしたいと思った場合に、「わりあい恵まれた普通の人」が直面するのは、こういう現実だ。
C氏には、いくつかの選択肢がある。
例えば、地方暮らしを選択するなどで、老後生活費率を、現役時代の0.6(倍)に落とすことができるとどうなるか。
分子は、0.6×600万円−180万円−2,400万円/30年=100万円だ。分母の方はというと、(15年/30年+0.6)×600万円=660万円なので、必要貯蓄率は15.2%まで下落する。「生活を縮小できるノウハウと自信」こそは、それが可能であればだが、老後不安に対する最強の備えと言えるだろう。
しかし、C氏は、都会暮らしに未練があるとしよう。この場合、現役期間を5年延ばすことが可能だとどうなるか。現役期間が延びると老後期間が縮む効果もある。
分子は、0.8×600万円−180万円−2,400万円/25年=204万円だ。効果が表れるのは分母の方だが、(20年/25年+0.8)×600万円=960万円となるので、この場合の必要貯蓄率は21.3%となる。30%よりは楽だ。
それでも21.3%は大変だと思うなら、さらに、老後生活費率を0.7倍にしてみよう。分子は0.7×600万円−180万円−2,400万円/25年=144万円だ。分母は、(20年/25年+0.7)×600万円=900万円だ。必要貯蓄率は16%まで下がる。毎月8万円貯めて、42万円で暮らすといいということだ。ただし、老後の生活は毎月29万4,000円で暮らせるように設計しなければならない。
70歳まで働いて、老後は現役時代の0.7倍を前提として、C氏が運用上取っていいリスクを検討しておこう。仮に、2,400万円を全額内外のインデックスファンドに投資していたとすると、1年間の最大損失額は、投資額の3分の1、すなわち800万円くらいだ。金融資産が800万円なくなると、どうなるか。
分子は、0.7×600万円−180万円−(2,400万円−800万円)/25年=176万円、分母は先の計算と変わらず900万円なので、約19.6%が必要貯蓄率だ。「必要貯蓄額が20%までいかないから、大丈夫!」という腹づもりを持つことができれば、このリスクは十分負担可能だと分かる。
リスク資産の期待リターンが年率5%だとすると、2,400万円は、来年に向けた1年間で120万円増えると期待できる。もちろん、そんなに増えないかもしれないし、もっと増えるかも知れない。来年になったら、変化した資産額を反映させて、また計算し直してみるといい。