執筆:窪田真之

今日のポイント

・次世代エコカーとしてEV(電気自動車)を本命と考える国が増加。電池性能の飛躍的向上で航続距離・電池寿命が延びたことが追い風。新興国でも大気汚染対策の切り札と見られるようになった。一方、先進国の米国では、パワフルな加速や自動運転がEV人気を支えている。

・EVは排ガスを出さないが、発電所でCO2を出すとの批判がある。EVは、発電所まで含めた総合エネルギー効率で見ても、ガソリン車を大きくりょう駕しており、エコカーと評価できる。

世界的にEV導入熱がヒートアップ

米国12州でZEV規制強化

 米国カリフォルニア州など12州で、2018年モデルイヤー(2017年夏開始)からZEV(ゼロ・エミッション・ビークル=排ガスをまったく出さないか少ししか出さない車)規制が強化されます。ZEV規制は、州内で販売の多い自動車メーカーに対し、ZEVの販売比率下限を定め、それ以上の販売を義務付けるものです。達成できないメーカーは、罰金を払うか、超過達成するメーカー(テスラなど)からCO2排出権を買う必要が生じます。

 2017年モデルイヤーまでは、HEV(ハイブリッド車)や低燃費ガソリン車までZEVの範囲に含まれていましたが、2018年モデルイヤーからHEVと低燃費車が除かれ、EV(電気自動車)、PHV(プラグインハイブリッド車)、燃料電池車、水素エンジン車の4種類だけがZEVとして認められることになります。

英国、フランス、インド、中国で、脱ガソリン車・ディーゼル車の検討始まる

 英国、フランスは、2040年までにガソリン車、ディーゼル車の販売を禁止する方針を打ち出しました。大気汚染が深刻な中国やインドでも、EVの普及を促進する動きがあります。インドは、2030年までに、新車販売をすべてEVにするという野心的な計画を発表。中国も、将来、ガソリン車・ディーゼル車の生産・販売を禁止する方針を打ち出しました。

なぜ今、EVの人気が急に高まっているのか?

 これには、4つの理由があります。

(1)電池の性能が大幅に向上

 3年前までEVは航続距離(フル充電で走ることができる距離)が100-200キロしかなく、社会インフラ(充電ステーション)も整っていないことから、本格普及は難しいと考えられていました。

 ところが、この3年で自動車用電池の性能(蓄電量・劣化せずに充放電を繰り返す回数)が大幅に向上しました。最先端のEVでは、航続距離が300-500キロまで延び、ガソリン車と遜色なくなってきました。

(2)大気汚染が深刻な新興国で、対策に本腰を入れざるを得なくなっている

 中国、インドは、電力供給の約8割を石炭火力に依存しています。環境性能の低い旧式の石炭火力もかなり残っています。それに加え、自動車の急増が大気汚染を深刻にしています。
中国・インドは、エコカーの導入を促進することと、原子力発電を導入することで、大気汚染を改善しようとしています。ただし、原発については安全性の問題などを理由に、導入を見送る国が増えています。

 大気汚染に苦しむベトナムは、昨年末、原発導入方針を撤回。原発導入が大気汚染対策の切り札と言えなくなりつつあります。こうした中、自動車の排ガス対策は待ったなしで、取り組まざるを得なくなっているのです。

(3)自動運転の開発熱が高まっていることも、EV優位に働いている

 欧米、および日本で自動運転の開発熱が高まってきたことも、EV普及を推し進める要因となっています。自動運転が主流になると、自動車はセンサーやモーターなどの装着率が上がり、電子機器に近づいていきます。ガソリン車でも自動運転は可能ですが、EVのほうがより親和性が高いといえます。

(4)米国ではEV独特のパワフルな加速が人気に

 米国では今、テスラモーターが生産販売する高級EVが人気です。米国でEVが売れるのは、エコカーとして人気があるからだけではありません。EV特有のパワフルな加速も人気です。

 米国では、ガソリン価格下落を受けて、燃費の悪い大型でパワフルなSUV(スポーツ用多目的車)人気が復活しています。小型で燃費のいい乗用車はすっかり人気がなくなりました。そんな米国でEVは、パワフルな加速が売りの「かっこいい車」として、人気が出ています。

 ガソリン車は、走り出すときは低速ギアを使い、スピードが上がるにつれて高速ギアに切り替えます。ところが、EVはモーターを使うので、低速時でも最大トルク(止まっているものを動き出させる力)を発揮できます。したがって、EVはギアチェンジが不要です。その結果、高級EVは、走り出しと追い越しの加速で、ガソリン車を凌駕しています。そこが、自動車マニアにとって、EVの魅力となっています。

EVは、総合エネルギー効率でガソリン車を大きく上回る

 EVは化石燃料を使わず、排ガスを出さずに動きます。ところが、生産をたどると発電所で化石燃料を使い、排ガス、COを出しています。EVを真のエコカーと呼んでいいか判断するためには、発電所まで含めた総合エネルギー効率を見る必要があります。
 

 総合エネルギー効率で、ガソリン車とEVを比較したのが、以下の表です。

ガソリン車とEVの総合エネルギー効率比較

注:ガソリン車・EVは、車種によってデータにかなり開きがある。ここでは平均的レベルを想定したデータを示している。技術進歩により今後大きく変わる可能性がある
出所:各種資料より楽天証券経済研究所が作成

 総合エネルギー効率は、化石燃料のエネルギーを100%としたとき、そのうち何%を有効に使ったか示すものです。最終的に、自動車を動かすエネルギーに変換できた比率を示します。

 総合エネルギー効率は、WELL TO TANK(化石燃料のエネルギーを自動車のタンクに積むまでの効率)と、TANK TO WHEEL(タンクに詰まれたエネルギーを運動エネルギーに転換する効率)に分けて、把握します。

 ガソリン車の場合、ガソリンを自動車に入れるまでに、精製ロスと運搬ロス(ガソリンを運ぶコスト)が発生します。あわせて20%と推定されます。したがって、ガソリン車の、WELL TO TANKの効率は80%です。

 一方EVでは、ここまでの効率が非常に低くなります。発電ロス(発電の際に失われるエネルギー)と送電ロス(送配電で失われるエネルギー)が発生するからです。発電効率については、日本の最も効率が良いLNG火力発電を前提として45%、送電ロスは5%としました。日本の非常に効率の良い送配電網を前提としています。

 それでも、WELL TO TANKの効率は43%(※)と、ガソリン車の80%を大幅に下回ります。ところが、TANK TO WHEELの効率で逆転します。内燃機関を使うガソリンエンジンでは、15%と低くなります(もっと効率の高いエンジンもあるが、ここでは一般的エンジンを想定)。一方、電気モーターを使うEVは、変換効率が60%と高くなります。

 その結果、WELL TO TANKと、TANK TO WHEELの効率をかけあわせた総合効率では、EVがガソリン車よりも倍以上の効率となっています。もっと燃費のいいガソリン車やハイブリッド車では、その差はもっと縮まりますが、それでもEVが優位という状況は変わりません。

 EVは、総合エネルギー効率を見ても、ハイブリッド車よりも優れたエコカーということができます。

※発電効率45%×0.95(送電ロス5%)=約43%

EVの普及加速に残る課題

 EV導入機運が高まってきたとは言っても、実際にEVが世界中で販売される車の大半を占めるようになるまでには、まだ10年以上かかるでしょう。電池の性能が大幅に向上したとは言っても、性能も供給能力もまだ十分とはいえません。さらなる性能の向上と、供給能力の大幅拡大が必要です。

 現時点では、電池の価格が高過ぎることも問題です。高性能の自動車用電池が、大量に安価に供給されるまで、EVの本格普及は見込めません。

 EVが本格普及のために必要な条件について、EVをガソリン車・ハイブリッドと比較したのが、次の表です。

ガソリン車、HEV、EVの性能比較

出所:楽天証券経済研究所が作成

 EVは、燃料充填にかかる時間が長いことが欠点です。最先端の高速充電器で将来は10分くらいでフル充電できるようにする研究が進んでいますが、現在は、高速充電でも20―30分かかります。家庭のコンセントで充電する場合は、電圧や充電器の種類によって大きな差がありますが、通常は、フル充電に5-8時間かかります。

 社会インフラ(充電ステーション)は増えてきていますが、まだまだ足りません。充電時間が長いことも併せて考えると、EVはまだ家庭で夜間に充電するのが基本で、外出先で充電することは、あまり得策と言えません。

 EVの価格については、車載用の電池が高いので、性能の良いEVは、高価となります。電池が量産によって安価になるまで、新興国でのEVの本格普及は難しいと思います。