2:使える範囲のベストの情報で判断する

 運用を考える場合に、直近までの情報を最大限活用しようとすることは当たり前だろう。たとえば、5月の時点のポートフォリオを、前年の12月の時点の情報に基づいたもののままで維持するという行動は、個人投資家の行動としては「異常」といっていいだろう。

 しかし、年金基金はアセットアロケーションにあって、5年単位くらいで策定する「基本ポートフォリオ」を墨守する行動を取るし、運用に関する大きな意思決定は年度単位くらいでしかできないことが多い。

 これは、年金基金が加入者や母体企業の経営陣など多数の関係者と関わる組織であることを考えると、実務上やむを得ない面があるが、彼らが行っていることが「運用」なのだということを考えると、困ったことである。

 このいわば短期間では航路を変えられない巨船のような組織(とお金)に、運用会社やコンサルタントが群がって、運用の意思決定のなにがしかを分担して、手数料を巻き上げるのが年金運用のビジネス構造だ。

 使える範囲の情報を有効に使っていないケースとして、年金基金も個人投資家も陥りやすいのは、「損切りルール」や「ポートフォリオ・インシュランス」だ。いずれも、あらかじめ価格に対して行動を決めておく運用戦略だが、たとえば、運用開始後半年で投資元本が10%減ったとして、その状況が生じるまでにはいろいろな事実があったはずだ。

 意思決定の問題として考えると、その時点までに生じた事実やその時点での情報を最大限に利用して、その時点に物事を決めればいい(損切りするか、そのままか、買い増しするか、等)。それなのに、事前に「損切り」や「ダイナミック・ヘッジング」を予約して自分自身の将来の行動を縛る必要はない。

「損切りルール」は、たとえば証券会社が契約ディーラーを使う状況のような、相手を信用できない状況で不確実性に対処するためにやむを得ず導入される仕組みであり、これを自分に適用するのは奇妙だし、「元本確保型ファンド」のようなものに投資するのは、ファイナンス的には利口でない。