今後、投資してみたい金融商品・国(地域)

楽天証券経済研究所 コモディティアナリスト 吉田 哲

 今回は、毎月実施している設問「今後、投資してみたい国(地域)」で、“アフリカ”と回答したお客様の割合に注目しました(8月の調査は2019年8月26日~28日に実施 当該設問は複数回答可)。

図:設問「今後、投資してみたい国(地域)」で、“アフリカ”と回答したお客様の割合

出所:楽天DIのデータをもとに筆者作成

 上記のグラフは、当該設問で“アフリカ”と回答した人の割合を示しています。2018年8月の調査では8.5%と、およそ2年10カ月ぶりの水準まで上昇しました。

 この足元の上昇と、ちょうど3年前(2016年8月)の上昇とでは、規模は違いますが、タイミングに共通点があります。それはアンケート調査と同じ月に、“TICAD(ティカッド)”が開催されたことです。

 TICADとは、Tokyo International Conference on Africa Developmentの略称で、「アフリカ開発会議」と呼ばれます。アフリカの開発をテーマとして、1993年から日本が主導して行ってきた国際会議で、2019年8月28日から30日にかけて、横浜市で7回目となる「TICAD7」が開催されました。

 TICAD開催期間前後は、インターネットやテレビ、新聞などで、会議が行われることや、アフリカが大きな市場として日本やその他の国々から有望視されていることが大きく取り上げられます。このような報道を目にし、今後の投資先にアフリカが有望なのではないか?と考えた人が増えたのだと思います。

 しかし、同じTICADの開催時期であったにも関わらず、上昇の幅に差が生じたのはなぜなのでしょうか?

 2年前のTICAD6は、「経済の多角化・産業化を通じた経済構造改革の促進」、「質の高い生活のための強靱な保健システム促進」、「繁栄の共有のための社会安定化促進」などの、アフリカの経済、保健、社会について、改革の促進、システムの促進、安定化促進を目指すことを盛り込んだ「ナイロビ宣言」を採択しました。

 一方、今年のTICAD7は、「イノベーションと民間セクターの関与を通じた経済構造転換の促進及びビジネス環境の改善」、「持続可能で強靱な社会の深化」、「平和と安定の強化」などの、アフリカのビジネス、社会、平和と安定について、転換の促進、環境の改善、持続可能なものへの深化・強化を目指すことを盛り込んだ「横浜宣言」を採択しました。

 ナイロビ宣言に複数回登場する“促進”とは、現在成長している最中にあり、その流れを後押しする、いわば“支援”の意味と考えることができます。つまり、TICAD6は“支援”を強化することを確認した会議だったと言えます。

 横浜宣言には、“転換”、“改善”、“深化”、“強化”というキーワードがあります。現在アフリカで起きている事や、アフリカが向かっている方向性が、正しくないため、それを正しい方向に導く必要がある、という趣旨の事が書かれていると解釈できます。

 諸問題に対し“民間”の関与を強くし“ビジネス”で解決する、つまりTICAD7は“投資”を加速させることを確認した会議だったと言えます。

 この2年間で日本のアフリカに対する姿勢が“支援”から“投資”に変わったわけです。日本にとってアフリカは、支援先ではなく投資先になったといえます。

 中国のアフリカへの関与が日に日に強くなっていることは、報じられているとおりです。対アフリカ投資は中国が先行しているとの声も聞かれます。

 筆者が気になっているのは、当のアフリカ自身が今、どのような状態にあるのか、ということです。支援先にせよ、投資先にせよ、アフリカは何を求めているのか?ということです。

 以下の図は、アフリカ全体、および額が近いイタリア、ブラジルの実質GDP(国内総生産)の推移を示したものです。

図:アフリカ全体、および額が近いイタリア、ブラジルの実質GDPの推移 

出所:国連のデータより筆者作成
単位:兆ドル

 アフリカは、50を超える国がありますが、合計すればブラジルやイタリアを凌ぐGDPを生み出す地域に成長しています。2017年のGDPの合計は、TICADがスタートした1993年の2.6倍です。

 日本を含む複数の国の“支援”によって、アフリカ各地で社会の基盤ができたことは紛れもない事実だと思います。そして近年、中国を中心とした国々が、そこに“投資”を加速させたことで、アフリカ各地で経済成長が進んでいることもまた、事実なのだと思います。

 TICADの方向性が、支援から投資に変わったのは、アフリカ自身が成長し、支援よりも投資を欲しつつあるとみられること、そして日本が投資に遅れをとりつつあることが背景にあると考えられます。

 日本としては、先行しているとみられる中国を追う立場にあり、その追随がどこまで通じるのかがまだ見通しにくい状況であると考えられます。このような不透明さが、2016年8月と2019年8月の上昇の差につながったと考えられます。

 引き続き、設問「今後、投資してみたい国(地域)」で、“アフリカ”と回答した人の割合に注目していきたいと思います。

表:今後、投資してみたい金融商品 2019年8月調査時点 (複数回答可)

※2018年12月より一部、選択肢を変更しております。

出所:楽天DIのデータより筆者作成

表:今後、投資してみたい国(地域)2019年8月調査時点 (複数回答可)

出所:楽天DIのデータより筆者作成

執筆者の連載

●シニアマーケットアナリスト 土信田 雅之 「テクニカル風林火山

●FXディーリング部 荒地 潤 「毎ヨミ!為替Walker

●コモディティアナリスト 吉田 哲 「週刊コモディティマーケット