今回は、台風シーズンが本格化したことを受け、台風を含んだ熱帯暴風雨と原油相場の関係について書きます。

 日本各地でもすでに大雨の被害などが発生しています。一刻も早い復旧とご安全をお祈りいたします。

2005年、2008年のハリケーン直撃で米国の原油生産量が減少

 米国でも各地に被害を及ぼす「ハリケーン」は、作物などへの被害などだけでなく、原油生産量、ひいては原油価格に影響を与える場合があります。

 2005年9月と2008年9月、超大型ハリケーンがメキシコ湾の石油基地を直撃したため、石油基地の生産力が下がり、一時的に米国の原油生産量が20パーセントも減少(前月比)しました。

図:メキシコ湾およそメキシコ湾周辺に上陸した主なハリケーン

出所:米国立ハリケーンセンターの資料をもとに筆者作成

 以下のグラフのとおり、ハリケーンは、原油生産量のグラフに、まさに“爪痕”を残しました。2~3カ月で生産量は元に戻りましたが、ハリケーンの進路と勢力次第で、米国の原油生産が大きなダメージを受ける事を強く印象付けました。

図 米国の原油生産量

単位:百万バレル/日量
出所:米エネルギー省(EIA)のデータをもとに筆者作成

 また、米国のシェールオイルとハリケーンの関係も、無縁ではありません。メキシコ湾およそメキシコ湾周辺に上陸した主なハリケーンのとおり、2017年8月にハリケーン“ハービー”がテキサス州西部に上陸しました。

 この際、量や期間は限定的であったものの、以下のとおり、同州にあるイーグルフォード地区(米エネルギー省が提唱する7つのシェール主要地区の一つ)の原油生産量が減少しました。

図 米シェール主要地区「イーグルフォード」の原油生産量

単位:百万バレル/日量
出所:EIA(米エネルギー省)のデータをもとに筆者作成

 米国の原油生産量は、2019年7月時点で日量およそ1,200万バレルです。2005年や2009年時点ではその半分以下の日量およそ500万バレル程度にまで減少していることが分かります。

 米国は今や、減産中のサウジとロシアを上回る世界No.1の原油生産国になったと言われています。2017年1月からサウジやロシアが協調減産を開始し、世界の石油の需給を引き締める策を実施していますが、シェールの急増をきっかけとした米国の生産量の急増によって、減産の効果が薄まっているという指摘があります。

 仮にハリケーンが今年、メキシコ湾の石油基地や周辺の地域に襲来し、実際に原油生産量が減少する事態になれば、

【1】世界最大の産油国の原油生産量が減る
【2】これまで協調減産の効果を薄めてきた事象が弱まる

 という2つの意味で、原油市場はハリケーン襲来を上昇要因と捉える可能性があります。

 もちろん、その場合でも、過去そうであったように、数カ月後には生産量が元に戻ることが想定されるため、上昇したとしても期間は長期的なものにはならない可能性があります。