リブラが問いかけるもの

 Facebook社が、暗号資産を使った決済システムである「リブラ(Libra)」の構想を発表して、各方面で話題を呼んでいる。

 率直な印象を言うと、今のところ、特に金融規制当局筋をはじめとして、リブラに対しては「懸念」のコメントが多い。アクティブなユーザーだけで全世界に15億人いると言われるFacebookの規模が各方面に戸惑いと不安を呼んでいるのだろう。

 我々は、リブラをどう考えたらいいのだろうか。

 リブラの詳しい仕様は明らかになっていないし、本稿の目的は現実のリブラそのものやFacebook社を評価することにある訳ではないので、ごく簡単に現時点で明らかになっているリブラの特徴を述べる。

(1)リブラは数十社の出資者を持ちスイスに置かれるリブラ協会で管理される
(2)リブラが発行される際には同価値の先進国通貨の短期国債のような資産がリブラ協会側で保有される
(3)リブラの取引は全てブロックチェーンに記録され管理される
(4)当面リブラに利息は付されない

といった決済手段としてリブラは存在し、


(5)Facebookのユーザー等で一定の条件を満たした人がリブラの口座をもつことができる
(6)口座間で(たぶん)ローコストで国際的なリブラのやり取りが可能になる

 リブラは、複数の先進国通貨資産の裏付けを持つので、こうした裏付けのないビットコインのような暗号資産よりも価値が安定的で経済取引に使いやすいものになると推測される。通貨としてのリブラのイメージは、先進国の通貨バスケットに価値が連動するIMF(国際通貨基金)のSDR(特別引き出し権)に近い。

「スマホにインストールされたSDR」を世界中の人々が手軽にやり取りできるのだとすると、これは確かにすごい。

 リブラ協会とFacebook社がどこまでやるのか、また、世界がそれを認めるのかという問題はあるが、取りあえず自由に想像すると、送金も、決済も、外国為替も、既存の金融機関、金融システムに取って代わることができるし、リブラのシステムの上に、融資、保険、さらには投資といったさまざまな金融ビジネスを乗せることが可能だろう。仮に、それぞれの分野のビジネス間でお互いが持っている情報を自由に利用できるなら、個々のビジネス分野における競争力は圧倒的だろう。

 現実には、リブラおよびリブラ関連のビジネスが、そこまでの自由を許されることはなさそうだ、と筆者は思う。また、ここで想像したようなリブラ的ビジネスを将来実現するのが、Facebook社やリブラ協会であるのかも定かではない。

 さて、極限まで自由に拡大し効率化されたリブラおよびリブラ関連ビジネスを、総称して仮に「究極のリブラ」と呼ぶことにしよう。

 なお、現時点では、「究極のリブラ」に最も近いビジネスは、中国のアリババグループのアント・フィナンシャルだろう。億人単位のユーザーを擁してデータを多角的に利用して、キャッシュレス決済、eコマース、個人の信用判断とローン、資金運用などが、すでに一体的にビジネス化されている。こうしたビジネスが、Facebookのユーザー規模と地域的拡がりをもって自由に展開され、さらに技術進歩が加わった状態を想像すると、筆者が想像する「究極のリブラ」に近い。