「究極のリブラ」に駆逐されそうな金融関連ビジネスのリスト

「究極のリブラ」は一気に実現するものではなさそうだが、徐々に実現していくと考えるべきだろう。5年掛かるのか50年掛かるのか分からないが、「究極のリブラ」の実現によって、存在意義が大きく変化しそうな既存の金融関連ビジネスをリストアップしてみた。

【駆逐されそうな金融ビジネスのリスト】

(1)銀行
 送金・外国為替はもちろん、決済の情報を失って、融資・投資のビジネスでも「究極のリブラ」に劣後するようになるだろう。少なくとも、店舗や人間は大きく減るはずで、ビジネスとして存在意義が残らない可能性がある。銀行業にあっては「情報」で劣るようになることが決定的だ。

(2)証券会社
「究極のリブラ」のプラットフォームに乗りつつ、証券取引を仲介するビジネスは存在するだろうが、ゆくゆくは「究極のリブラ」に吸収されるビジネスだろう。

(3)証券取引所
 証券をリブラ建てでリブラのプラットフォーム上で取り引きすることは可能だろうし、上場審査のような情報力を必要とする分野では、取引所よりも、「究極のリブラ」の側に優位性がある。証券取引所は、将来、存在意義自体を問われるビジネスになるかも知れない。
 また、そもそも、「株式」や「債券」といった、ファイナンスの手段自体が、「究極のリブラ」のプラットフォーム上で、より便利なものに再発明される可能性が大きい。

(4)保険会社
「究極のリブラ」は、例えば、個人に関して圧倒的な情報量を持つはずだから、これを利用できない既存の保険会社に対して優位な競争力があるはずだ。もちろん、プラットフォーム上の保険販売のコストも安いはずで、「究極のリブラ」の側が「正しく行動するなら」競争力では負けようがない。保険業界にあっても、人間が大量に不要になる可能性は大きい。

(5)運用会社
「究極のリブラ」以前に、判断に一貫性のある(つまり選ぶに足る必要条件を満たす)運用は、判断基準がルール化でき、機械化・自動化(俗な言葉で言うと「AI化」)でき、このルール自体がディープ・ラーニングの対象になって進歩するので、運用業務に必要な人間は減るはずだ。

 また、顧客にとって必要なものは、最終的には「ポートフォリオ」であって、「人間の関与するサービス」ではないのだから、運用ビジネスは、AI化されつつ「究極のリブラ」のプラットフォームに乗るだろうし、想像を延長すると、「究極のリブラ」に吸収されそうだ。

(6)中央銀行
 将来、リブラ建ての貸し出しによる信用創造がどのように起こるか、これを誰がコントロールするかが問題になる。現状ではリブラ協会はリブラに付利せず、ハードカレンシー建ての安全資産の利息はリブラの運営費その他に振り向けられることになっているが、将来ハードカレンシーの金利が上昇すると、金利変動によってリブラの価値が不安定化する可能性がある。

 将来、リブラにも金利を付ける方が価値の安定を得やすいと思われるが、そうした状況を仮定すると、リブラの金利の上げ下げが「世界の政策金利」の役割を果たすようになる可能性が想像できる。金融政策にあって、FRB(米連邦準備制度理事会)よりもリブラ協会の影響力が大きくなる可能性がないとは言えない。

「個々の中央銀行の属人的政策決定に影響を受けていた昔よりも、リブラのシステムの方が可視化されていて民主的に金融政策が決まるので良い」などと将来言われるようになるのだろうか。

 金融マンとして、中銀マンも「究極のリブラ」の前には安泰ではない。