意図せざる「個人投資家」が急増中!

 平成27年から相続税の基礎控除額が減り、相続税が課税される割合が大きく増えていること、ご存知でしょうか?
 
 国税庁が平成28年12月に発表した、「平成27年分の相続税の申告状況について」では、亡くなった方のうち相続税の課税対象となった割合は8.0%でした。平成26年分は4.4%ですから、相続税の納税が必要になった方は実に2倍近くになったということです。
 
 これは全国平均ですから、都心部の場合はさらに高いパーセンテージになっています。そして、相続税の納税が必要になる方の相続財産には、その多くに上場株式や債券、投資信託といった有価証券が含まれています。
 
 その結果、それまで株式投資・資産運用をまったく行っていなかった相続人が、有価証券をいきなり保有するという、まさに意図せざる「個人投資家」誕生となるのです。
 

突然上場株式を相続した人がとりがちな2つの行動パターン

 投資をまったく行っていなかった人が突然上場株式などの有価証券を相続すると、どのような行動パターンになるでしょうか。多いのが以下の2つです。

(1)相続した有価証券をすべて売却し、換金する
(2)相続した有価証券をそのまま持ち続ける

 また、手元に相続税を払うだけの資金がなければ、相続した有価証券の一部を売却して納税に充てる、ということもあるでしょう。いずれにせよ、相続により受け取った有価証券をどうするのかは受け取った自分自身で決めないといけないということです。

どれを残し、どれを売るかを決める

 しかし、今まで自身で株式投資をしたことのない方が上場株式を相続しても、おそらくそれをどうするか決めることはなかなか難しいです。その結果、「全部売る」か「全部そのまま持ち続ける」という選択肢にならざるを得ません。
 
 もちろん、自分でよく考えた結果、全部売る、もしくは全部保有を続けると決めたのであれば特に問題ありません。でも、考えてもよくわからないからとりあえず全部売ろうとか、とりあえず全部持っておこう、というのではもったいない気がします。
 
 株式の銘柄ごとに、「どれを売り、どれを残すかを決める」というスタンスで進めていくのが理想的です。その際に注目すべきポイントは、「業績」と「配当」です。
 

「業績」と「配当」の観点から残す銘柄、売る銘柄を決める

 まず業績については、毎年売上と利益が伸びているなど、将来株価が上昇しやすい銘柄かどうかを判断します。業績が不安定な銘柄は、株価の動きも不安定になりやすいので、売却を検討します。
 
 過去の株価の値動きを参考にするのもよいでしょう。たとえば、過去10年間の株価がほぼ右肩上がりに上昇しているなら業績が伸びている可能性が高いので保有継続とします。株価が上がったり下がったりしている、もしくは右肩下がりに下落しているなら売却します。
 
 また、配当金の観点からは、過去10年間の配当金が横ばいもしくは増加傾向にあり、業績も伸びているもしくは安定的であれば保有継続とします。業績が不安定な銘柄は、配当金の額も毎年変動する可能性があり、それに伴い株価も大きく動いてしまう可能性がありますから、売却を検討します。
 
 いっそのこと、相続で受け取った株をすべて売却した後、自分なりの投資スタイルで1から構築しなおすというのも1つの方法です。筆者であれば、これに近い形を取ります。
 
 いずれにせよ最終的には、たとえば筆者が日々実践しているように、上昇トレンドになったら買い、上昇トレンドが続く限り保有継続、下降トレンドに転じたら売却、というように自らの投資ルールを決め、そのルールに沿って売買をしていくのが望ましいです。
 
 たとえ業績が伸びている銘柄であっても、それがいつまでも続くかどうかはわかりませんし、業績の伸びが止まってしまったら、株価も大きく下落してしまう可能性が高いからです。

いざというときに備えてあらかじめ準備しておきたいこととは?

 いつ相続が発生して、上場株式を自分が相続することになるかどうかはわかりません。そのため、ある程度の準備は事前にしておくことをおすすめします。
 
 まず、被相続人になりうる方(親御さんなど)が使っている証券会社を調べ、その証券会社に口座をあらかじめ開設しておきましょう。原則として、上場株式を相続するときは、同じ証券会社の相続人の口座へ振り替えることになるからです。相続が生じたとき、同じ証券会社に相続人の口座がなければ、株式を移管するのに時間がかかってしまいます。
 
 また、株式投資の基本的な知識を身に付けるため、本や楽天証券のコラムなどで学習しておきましょう。余裕があれば、少額でもよいのでご自身で株式投資を始めてみてください。株式投資の経験があれば、突然上場株式を相続することになっても特に慌てることなく冷静でいられるはずです。

親御さんと何でも話せるような関係になっておくのが吉 

 よく聞くのが、「自分の親がどのような財産を持っているか、教えてくれない」ということです。確かに、親御さんの方からお子さんへ積極的に相続の話をされるケースは多くないと思います。


 そうであれば、お子さんの方から、親御さんへ一度アプローチしてみてください。その際、親御さんが財産を開示しないと残された側が困ってしまう、という理由を添えてみるとよいと思います。たとえば「自分が相続税をどれくらい払う必要があるのか知って、あらかじめ準備しておきたい」とか、「相続をきっかけに兄弟の仲が悪くなってしまうのはいやなので、財産の分け方を事前に話し合っておきたい」などといったことです。


 そして何よりも、親御さんとお子さんとで、普段から何でも会話ができるような環境にしておくことが重要です。相続が発生して、財産を受け取ってから慌てることのないよう、できる限りの準備はしておきましょう。