円高トレンドの終わりの始まり

 円相場のトレンドの変調を実際のデータで確認しましょう。

 図1は、ドル/円と日米インフレ率の相対比を並べています。インフレ率の低さが円高を招いたと既に述べましたが、日本のインフレ率は長年にわたり、米国より2%ほど低い状況が続きました。ドル/円の中心軌道も毎年平均2%ほど円高側に引き込まれていたのです。

 1980年代から1990年代半ばにかけて、日本経済が強く、貿易黒字も大きいことを背景に、円相場は日米インフレ比が示す理論値より円高になりがちでした。このかい離部分をインフレ調整後で見て「実質円高」になっていると言います。

 それが、1990年代後半以降、その理論値より円安側で推移しています。つまり、インフレ分を調整してみると、日本経済が劣勢な分、「実質円安」が進行しているのです。

図1:日米インフレ比とドル/円

出所:IMF、Bloomberg Finance L.P.

 図2は、日米生産性の相対比と、インフレ調整後の実質ドル/円相場を対比しています。1990年代の半ばに、円の対ドル相場は実質でピークアウトしています。円高トレンドの終わりの始まりの兆しが、実質の世界には現れ始めています。

図2:日米生産性比と実質ドル/円

出所:IMF、Bloomberg Finance L.P.