海外投資失敗の歴史(1)円高トレンド

 とはいえ、日本人の海外投資の歴史は踏んだり蹴ったりでした。

 1980年代までは、日本経済は主要国で経済成長率が最も高く、生産性の伸び率でも最強でした。生産性の伸び率が高いということは、モノを効率よく安く作れるということ、つまりインフレ率が低くなる主要因の一つになりました。輸出主導で貿易黒字、経常黒字を積み上げ、低インフレと経常黒字増加は円を強くし、その結果、国内投資の方が海外投資よりパフォーマンスは良かったのです。

 ところが1990年代以降、日本経済は苦境が続きます。経常黒字を積み上げて世界最大の対外債権国の通貨となった円は、リスクオフ状況では円高になりやすい性質を強めました。バブル経済崩壊後の苦境、人口減に伴う国内需要の低迷、円高、日本銀行のタカ派姿勢などが相まって、インフレはデフレに至り、それがまた円を押し上げました。海外投資は、この円高トレンドの中で何度も煮え湯を飲まされました。

海外投資失敗の歴史(2)高金利新興国の罠

 日本の「失われた20年」と呼ばれた苦境の中、海外の高金利投資こそが活路ともてはやされる場面が度々ありました。豪ドル、NZドル、南アフリカ・ランド、ブラジル・レアル、トルコ・リラへの投資は一大ブームになり、そして程なく、例外なく相場急落の大惨事に見舞われました。

 これら高金利通貨の国は全て、経常赤字を積み上げる借金国です。内外経済が良好で、ドルが国際的にだぶつき気味の時に、ドルが高金利の新興国に流れ込んで、相場を祭り上げるのが毎度のパターンです。その後は米国が金融引き締めによってドルを回収したり、新興国経済に陰りが出たりすると、途端に大急落する性質があるのです。

 日本人はこれら高金利通貨に円で投資します。これら通貨が下落するとき、円はリスクオフで殊更に上昇し、為替差損を相乗的に膨らませました。こういう失敗の歴史を経て、高金利通貨への投資は有利ではないと戒める専門家の解説をしばしば目にします。

 しかし、私の捉え方は違います。ポイントは3つあります。

 第1に、高金利通貨は追い風場面と向かい風場面の対照性が強く、その変わり目を知らせるシグナルも明快です。追い風に乗って投資したら、次は引き際のシグナルを注視するのみです。

 第2に、相場サイクルを複数カバーする長期投資なら、その国の高経済成長に見合う高リターンの資産をしっかり選ぶことです。

 第3に、日本経済最強の時代はとうに過ぎ、リスクオフでの円高過敏症も徐々に弱まり、かつてのような円高トレンドは終わりを迎えつつあるということです。