執筆:窪田真之

今日のポイント

・北朝鮮の暴走が止まらない。国連安保理は、経済制裁を一段と強めることを検討。北朝鮮への石油禁輸が検討課題に。

・北朝鮮が民主化すると、共産党独裁が続く中国に影響が及ぶ。中国は、表面上、北朝鮮を強く非難しつつ、北朝鮮を追い詰める経済制裁には同意しない可能性が高い。

北朝鮮に振り回される日経平均

 日経平均は、朝鮮半島情勢の緊迫化を受けて、ジリジリ売られる展開が続いています。5月以降、続いてきた2万円を中心としたボックス圏(1万9,600-2万200円)を下回っています。

日経平均週足:2016年7月3日―2017年9月5日

注:楽天証券マーケット・スピードより作成

 8月29日早朝、北朝鮮が北海道上空を通過する中距離弾道ミサイルを発射。政府が国民に向けてJアラート(全国瞬時警報システム)を発信すると、一時、日経平均は1万9,280円まで売られました。その後、事態は鎮静化するとの期待から買い戻され、9月1日の日経平均は一時、1万9,735円まで反発しました。

 ところが、北朝鮮が6回目の核実験を9月3日に実施したことが伝わると、日経平均は再び下落に転じ、8月29日に付けた安値に接近しました。

 小野寺五典防衛相は、今回の核実験の爆発規模は2016年の規模を大きく上回り、「広島に投下された原爆の4倍以上」の可能性があると述べました。

 北朝鮮の発表ベースでは、今回の核実験で、米国本土に届くICBM(大陸間弾道ミサイル)の核弾頭部装着用の水爆開発にメドをつけたとしています。北朝鮮の脅威は、一段と増しています。

国連が実効性のある経済制裁を出せない理由

 2006年10月、北朝鮮が初の核実験を実施すると、国連の安全保障理事会決議ですぐに経済制裁を発動。核、弾道ミサイル、大量破壊兵器に関連する物資と資金の移動を禁じました。以後、核実験・ミサイル発射を繰り返すたびに、制裁を強化。昨年9月には、北朝鮮の主な外貨獲得手段である石炭輸出にも上限を設けました。

 ところが、この一連の経済制裁も北朝鮮をひるませるには至らず、ICBM、核開発をさらにエスカレートさせています。

 経済制裁が実効性を持てない理由は明らかです。北朝鮮の対外貿易の9割を占める中国が、制裁に本腰を入れないからです。

 今年7月に北朝鮮が2度、ICBMを発射すると、ついに国連は、北朝鮮からの石炭・鉄輸入を全面禁止とすることを決議しました。これを受けて中国は、8月から石炭・鉄・鉄鉱石・鉛・鉛鉱石・水産物などの輸入をストップすると発表。北朝鮮の核開発の資金源を断つ戦略です。

 しかし、北朝鮮の挑発は止みませんでした。

 危機感を強めた国連安保理では、さらに強力で即効性がある制裁が必要とし、北朝鮮への石油の禁輸を打ち出すことを検討しています。しかし、中国とロシアが難色を示しています。

 中国・ロシアはこれまで、北朝鮮のミサイル発射や核開発を口先では非難してきましたが、北朝鮮の資金源を徹底的につぶすことには、及び腰でした。

 北朝鮮の最大の貿易相手国、支援国である中国が決断しない限り、制裁の実効性は見込めません。

中国が北朝鮮をかばい続ける理由

 実のところ北朝鮮は、中国にとっても頭の痛い存在となっています。北朝鮮はともに朝鮮戦争を戦った同盟国ですが、今や中国にとっても対話が成り立たない国となり、暴走を続けているからです。

 それでも、中国が金正恩政権を見捨てることはないと考えられます。これには2つの理由があります。

(1)北朝鮮が民主化すると、中国にも民主化の波が伝播する可能性があり、これを避けたい

 金正恩政権が崩壊し、北朝鮮が民主的に国民の代表を選ぶ国になると、中国にも影響が及ぶ可能性があり、これを避けたいねらいがあります。中国では現在、中国共産党の一党独裁に、国民の不満が高まっていて、それを力で押さえ込んでいる状態だからです。

 この問題は、ロシアも同じ状況です。このため、ロシア・中国は、表面上、北朝鮮を非難しても、裏では北朝鮮を擁護し続けているという事情があります。そして、北朝鮮の核開発には、ロシアの技術が使われている可能性があります。

(2)中国内に、北朝鮮は「朝鮮戦争を戦った同士」との感情がある

 1949年、中華人民共和国(中国)が建国されると、1950年には朝鮮戦争が始まりました。この戦争では、国連軍・韓国軍と、北朝鮮および中国義勇軍が戦いました。「中国義勇軍」は、実質的には中国正規軍だったと考えられます。国連軍の主体が米軍だったことを考えると、朝鮮戦争では事実上、米国と中国が戦ったことになります。

 こうした背景から、今でも中国には、北朝鮮を見捨てることはできないという感情があるのです。

 今週末の9月9日(土)に、北朝鮮は建国記念日を迎えます。そこで、さらに挑発・示威行為を重ねる懸念もあり、中国・ロシアが北朝鮮をかばい続けるのが困難な情勢になりつつあります。それでも、中国は、北朝鮮をかばうでしょうか? 今後の展開が注目されます。