研修は独立・中立な専門家に依頼せよ

 上記のメカニズムに得心が行った社長は、すぐにでも社員にマネー・リテラシー研修を行いたいと思うだろう。一般に、社長という生き物はメリットに対してせっかちに行動する(メリットに鈍感な人は、99%社長に不向きだ)。

 行動が早いのは大変いいことなのだが、研修を依頼する相手を間違えないで欲しい。

 社長が陥りそうな間違いを推測すると、「取引先の金融機関(ないしはそのグループ会社)に社員へのマネー研修を依頼すること」が思い浮かぶ。これは、会社と社員の状況を更に悪化させかねない愚挙である。おそらくタダ(無料)で、金融機関の社員なり系列会社なりが講師を派遣してくれるだろうが、「タダほど高いものはない」という諺はこういう状況のためにある。

 社長がすでに犯しているかも知れない間違いをもう一つ挙げておくと、取引先の金融機関を通じてDC(企業型確定拠出年金)を導入した会社が、その金融機関のグループから(金融機関自身であることもあればナントカ総研といったグループ会社であることもある)DCの使い方や商品を説明する講師を迎えて、社員向けのDCの研修を行うケースが挙げられる。この場合、社員は不適切な商品に誘導されやすいし、「正しいけれども金融機関に不都合な知識」を知ることができない。

 社長の多くは我慢強くないので、3つ続けて批判される心の余裕がない場合が多い。心配なケースはまだあるのだが、「どうしたらいいか」という前向きな情報をお伝えすることにしよう。

 大事な社員へのマネー・リテラシー研修は「十分な知識があって、商品を販売しない、中立なアドバイザー」に依頼するべきだ。それ以外の選択肢はない。

 金融機関の社員、金融機関のグループ会社の社員が不適格であることはもちろんだが、FP(ファイナンシャル・プランナー)やIFA(独立系ファイナンシャルアドバイザー)を自称するアドバイザーであっても、顧客に金融商品を販売することから利益を得る可能性がある人は不適格だ。

 FPは研修を依頼しやすい相手だが、生命保険や不動産投資等を顧客に紹介してバックマージンを取る構造ビジネスを営んでいる例が少なくないので注意が必要だ。また、そもそも運用に関して十分な知識を持っていないことが多い。安心して研修を依頼できる相手は限られているのが現状だ。

 ちなみに、筆者自身は、企業向けにこの種の研修の講師を引き受けることが時たまあるが、証券会社の社員なので依頼元としてはよくよく気を付けるべき(普通は除外するべき!)講師である。