クアルコム

 クアルコム(QCOM)は携帯電話に組み込まれるモデム・チップをデザインしている企業です。同社のパテントは携帯電話の根幹となる基礎技術であり、同社は支配的な立場にあります。

 同社は4月にアップルとパテントを巡り和解が成立し、賠償金を受け取るとともにアップルの5G向けモデム・チップを独占的に提供する契約を結びました。

 5月4日に発表された第2四半期(3月期)決算はEPSが予想71セントに対し77セント、売上高予想48.3億ドルに対し48.8億ドル、売上高成長率は前年同期比▲5.9%でした。

 第3四半期のEPSは予想1.08ドルに対し、新ガイダンス70~80セントが、売上高は予想52.7憶ドルに対し新ガイダンス47億ドルから55億ドルが提示されました。

 なお、これとは別にアップルはクアルコムに対し、45億~47億ドルの支払いを行います。

 ここまでは良かったのですが、その後、同社に2つの悪いニュースがもたらされました

 まずファーウェイに対する輸出規制で、クアルコムはファーウェイに対するチップの供給をストップしました

 これに追い打ちをかけるように、5月22日カリフォルニア州サンノゼの米連邦地方裁判所ルーシー・コー判事が、クアルコムは反トラスト法に違反したというFTC(連邦取引委員会)の主張を全ての項目に関し支持しました

 クアルコムは上訴する考えであり、今回の判断は最終ではありません。もし最終的にクアルコムが敗訴した場合、クアルコムの売上高は半減するリスクもあります。その理由は同社が「ノー・ライセンス、ノー・チップス」という顧客との契約方針を貫いているからです。

 そこではクアルコムの顧客のテクノロジー企業がまずクアルコムの特許をライセンス契約で導入し、その上でクアルコムがファンドリーに委託製造させた半導体そのものも独占的に購入するという条件になっています。

 ところでクアルコムの特許は、いわゆる「標準必須特許(Standard-essential patent)」です。これは「業界標準」を関連企業が一堂に会して決めたほうが全員が得をするようなテクノロジーに賦与(ふよ)されるパテントです。

 パテント法では標準必須特許は他の特許と違い「それをライセンス導入したいと希望する企業には、そのノウハウを使わせないとならない」という規則があります。

「これはどうしてか?」と言えば、もし標準必須特許を広く一般の企業に使わせないという風に独り占めすると、それが業界標準であるにもかかわらず、それを1社が独占するという「ひとり勝ち」の状況が作れるからです。

 FTCは「クアルコムは、まさしくそれをやっている!」と主張したわけです。

 普通、標準必須特許はFRAND(フェアで、リーズナブルな値段かつ、ノン・ディスクリミナトリー、すなわち誰もが平等に機会を与えられる)原則に基づいて提供されるべきものです。

 クアルコムの「ノー・ライセンス、ノー・チップス」契約はそれに違反しているのです。

 クアルコムの売上高のうちライセンシング売上高は25%、残りの75%がチップ(半導体)売上高です。もし他の半導体メーカーがFRANDのガイドラインに基づき、まずクアルコムにライセンス契約を結び、独自に半導体を製造、販売すればもっと安い値段でそれを売ることができるわけです。

 ウォール街のアナリストは、もしクアルコムがFRANDのガイドラインに従った場合、同社の売上高は半減する恐れがあると予想しています。