大きく変わった5G関連銘柄を取り巻く環境

 4月23日の本コラム「時代を先導する米国5G関連銘柄の業績を分析!5Gを制する者は世界を制するか?」で5G(第5世代移動通信システム)関連銘柄を紹介しました。それ以降、中国通信機器大手ファーウェイ(華為)に対する輸出規制が発表され、クアルコムに対してサンノゼの連邦地方裁判所が独禁法違反の判断を示すなど、いろいろなニュースが出ました。その結果、5Gのストーリーは変わってきています

 結論を先に言えばシエナはポジティブ、キーサイト・テクノロジーズ、ビアビ・ソリューションズ、ザイリンクス、クアルコムはネガティブです。

 今回は、それぞれの5G関連銘柄の近況について説明します。

シエナ

 シエナ(CIEN)は光ファイバー・ネットワークの根幹を駆動するハードウエア、ならびにソフトウエアをつくっているメーカーです。
トランスポート、スイッチ、アグリゲーションなどの場面で同社の製品は採用されています。

 同社は6月6日に第2四半期(4月期)決算を発表しています。

 EPS(1株当たり利益)は予想41セントに対し48セント、売上高は予想8.18億ドルに対し8.65億ドル、売上高成長率は前年同期比+18.5%でした。

 第3四半期売上高予想8.53億ドルに対し、新ガイダンス9.15億~9.45億ドルが提示されました。

 通年での売上高成長率は+13~14%を見込んでいます。

 第2四半期では全ての商品分野、全て顧客分野で成長を記録しました。新規受注は売上トレンドをはるかに超えています。来期以降の見通しは極めて立てやすいです。

 ここ数年の業界のトレンドシフトはシエナにとって良い方向に動いてきています。

 需要は旺盛で、顧客企業は「質への逃避」に流れており、高級機を扱っているシエナにとって有利な展開です。

 ファーウェイに対する規制で、顧客企業は中国製品の比率を減らす方向にあります。これは同社にとって朗報です。

 シエナの製品群は今、業界内で最も充実しており、将来のロードマップも明快に描けています。

 今期は北米のトップ企業、とりわけAT&T(T)からの注文が好調でした。

 ウェブスケール部門の売上高は+31%でした。昨年ほどは成長しないものの、好調であることには変わりありません。

 米国の通信会社からの大口受注で、年内分の売上高はもう確保できています。海外もおしなべて好調です。欧州、日本も好調です。

 5G関連銘柄のうちシエナは、今回のファーウェイへの輸出入規制で、明らかに漁夫の利を得ており、いまいちばん勢いに乗っていると言えます。

キーサイト・テクノロジーズ

 キーサイト・テクノロジーズ(KEYS)はヒューレット・パッカードの計測器部門をルーツとしており、通信業界向けテスターなどを生産しています。

 5月30日に発表された第2四半期(4月期)決算では、EPSが予想99セントに対し1.22ドル、売上高が予想10.7億ドルに対し10.9億ドル、売上高成長率は前年同期比+9.4%でした。

 第3四半期は予想97セントに対し新ガイダンス97セント~1.05ドルが、売上高は予想10.6億ドルに対し新ガイダンス10.2億~10.6億ドルが提示されました。

 キーサイト・テクノロジーズはテスターなどをファーウェイに納品しているため、ファーウェイの輸出規制は同社にも影響が出るものの、同社全体の売上高のうち、ファーウェイ向けビジネスはごくわずかです。

 商務省の示した手順通り、輸出許可を申請する考えです。

 仮に同社のファーウェイの輸出が商務省から却下された場合でも、通年で売上高成長率+7%から8%を達成できると見込んでいます。

ビアビ・ソリューションズ

 ビアビ・ソリューションズ(VIAV)は、もともとJDSユニフェイズという会社でした。2015年に分社化され、オプティカル・イノベーション、コミュニケーション・ネットワーク、サービス・エレメント、商業レーザー、偽造防止ソリューションのビジネスとして独立しました。

 ビアビ・ソリューションズの第3四半期(3月期)決算は、ファーウェイに対する輸出規制が発表される前の5月2日に発表されています。EPSは予想12セントに対し13セント、売上高は予想2.60億ドルに対し2.65億ドル、売上高成長率は前年同期比+20.9%でした。

 第4四半期はEPS予想15セントに対し新ガイダンス14セントから16セント、売上高予想2.73億ドルに対し新ガイダンス2.68億~2.88億ドルが提示されています。
なお重要なポイントとして、このガイダンスはファーウェイに対する輸出規制のニュースを勘案していません。またファーウェイへの規制のニュースの後で、同社はガイダンスの変更を示していません。おそらく今後の数字は下がってくるでしょう。

ザイリンクス

 ザイリンクス(XLNX)は半導体の会社です。同社はFPGA(フィールド・プログラマブル・ゲートアレイ)と呼ばれる半導体をデザインしています。FPGAはテクノロジー企業が最新鋭の製品をいち早く発表する際、半導体回路をいちいち設計していては時間がかかるため、ソフトウエアで回路の機能を規定するための製品を生産しています。

 このため、いまだ意匠が完全に決まっていない試作品や第1世代の製品などでFPGAは活躍します。

 4月26日に発表された同社の第4四半期(3月期)決算はEPSが予想96セントに対し94セント、売上高が予想8.26億ドルに対し8.28億ドルでした。

 地域別売上高は北米が+13%、アジア太平洋が+56%、欧州が+12%、日本が+20%でした。

 エンドマーケット別売上高はコミュニケーションが+74%、データセンターが▲7%、自動車・消費者+20%、工業・防衛が+1%でした。

 コミュニケーション向けの売上高が急成長した背景は、5G向けの出荷が好調だったことによります。韓国、中国での5Gインフラ建設が需要をけん引しました。

 在庫は112日でした。ちなみに前年同期は117日でした。

 第1四半期売上高は予想8.35億ドルに対し新ガイダンス8.35億~8.65億ドルが提示されました。

 この決算の後でファーウェイへの規制が発表されました。同社の場合、ファーウェイ側が今回の輸出規制を見越し、あらかじめザイリンクスのFPGAを大量に仕込み、在庫を積み上げていた形跡があります

 したがって同社は今後あまり売り上げ増を期待できません。

 同社は5月15日にアナリストデーを開催し、その際、2020年度の売上高ガイダンスとして34.5億~36億ドルという数字を提示しました。しかしその数日後にファーウェイに対する規制が発表されています。したがってこのガイダンスはもう信頼できないと思います

 いずれにせよ、ザイリンクスの周辺は逆風の材料ばかりなので、投資は見合わせた方が良いと思います。

クアルコム

 クアルコム(QCOM)は携帯電話に組み込まれるモデム・チップをデザインしている企業です。同社のパテントは携帯電話の根幹となる基礎技術であり、同社は支配的な立場にあります。

 同社は4月にアップルとパテントを巡り和解が成立し、賠償金を受け取るとともにアップルの5G向けモデム・チップを独占的に提供する契約を結びました。

 5月4日に発表された第2四半期(3月期)決算はEPSが予想71セントに対し77セント、売上高予想48.3億ドルに対し48.8億ドル、売上高成長率は前年同期比▲5.9%でした。

 第3四半期のEPSは予想1.08ドルに対し、新ガイダンス70~80セントが、売上高は予想52.7憶ドルに対し新ガイダンス47億ドルから55億ドルが提示されました。

 なお、これとは別にアップルはクアルコムに対し、45億~47億ドルの支払いを行います。

 ここまでは良かったのですが、その後、同社に2つの悪いニュースがもたらされました

 まずファーウェイに対する輸出規制で、クアルコムはファーウェイに対するチップの供給をストップしました

 これに追い打ちをかけるように、5月22日カリフォルニア州サンノゼの米連邦地方裁判所ルーシー・コー判事が、クアルコムは反トラスト法に違反したというFTC(連邦取引委員会)の主張を全ての項目に関し支持しました

 クアルコムは上訴する考えであり、今回の判断は最終ではありません。もし最終的にクアルコムが敗訴した場合、クアルコムの売上高は半減するリスクもあります。その理由は同社が「ノー・ライセンス、ノー・チップス」という顧客との契約方針を貫いているからです。

 そこではクアルコムの顧客のテクノロジー企業がまずクアルコムの特許をライセンス契約で導入し、その上でクアルコムがファンドリーに委託製造させた半導体そのものも独占的に購入するという条件になっています。

 ところでクアルコムの特許は、いわゆる「標準必須特許(Standard-essential patent)」です。これは「業界標準」を関連企業が一堂に会して決めたほうが全員が得をするようなテクノロジーに賦与(ふよ)されるパテントです。

 パテント法では標準必須特許は他の特許と違い「それをライセンス導入したいと希望する企業には、そのノウハウを使わせないとならない」という規則があります。

「これはどうしてか?」と言えば、もし標準必須特許を広く一般の企業に使わせないという風に独り占めすると、それが業界標準であるにもかかわらず、それを1社が独占するという「ひとり勝ち」の状況が作れるからです。

 FTCは「クアルコムは、まさしくそれをやっている!」と主張したわけです。

 普通、標準必須特許はFRAND(フェアで、リーズナブルな値段かつ、ノン・ディスクリミナトリー、すなわち誰もが平等に機会を与えられる)原則に基づいて提供されるべきものです。

 クアルコムの「ノー・ライセンス、ノー・チップス」契約はそれに違反しているのです。

 クアルコムの売上高のうちライセンシング売上高は25%、残りの75%がチップ(半導体)売上高です。もし他の半導体メーカーがFRANDのガイドラインに基づき、まずクアルコムにライセンス契約を結び、独自に半導体を製造、販売すればもっと安い値段でそれを売ることができるわけです。

 ウォール街のアナリストは、もしクアルコムがFRANDのガイドラインに従った場合、同社の売上高は半減する恐れがあると予想しています。