実際のところはどうなのか?

 上記で述べたように、理屈上では自社株買いによって株価は上昇する可能性が高いといえます。では、実際は株価がどのように動くのでしょうか。

 例えば、A社は3月12日に発行済み株式総数の3%である37万株を上限、取得価額3億円を上限として自己株式を取得すると発表しました。

 この発表により、783円だった株価は翌日一時835円まで上昇しました。しかし4月26日時点では775円まで株価は値下がりしています。

 ではこの間、A社は自己株式を取得していないかといえばそうではありません。3月13日以降、実際に自己株式取得をしています。

 実は企業の自社株買いそのものは、株価を上昇させるというよりは株価の下支えの効果を有するケースが多いです。

 A社の場合、取得株式上限は37万株、取得価額の総額は3億円が上限です。したがって、1株当たりに直すと3億円÷37万株=811円となります。

 そして3月13日から3月29日の間の自己株式取得は取得総額およそ6,975万円、株数は8万6,700株でした。1株当たりでは805円です。

 自社株買いを発表した日の終値は783円でしたから、A社は平均して811円以下で自己株式を取得するつもりであり、実際に3月下旬は平均805円で取得しているのです。

 このように、自己株式を取得する企業は「株価が下がったら買おう」と考えている、これが真実です。もちろん、株価が値下がりせずに上昇するならば高くなっても買うことになりますが、企業自らの買いで株価を引き上げようしているわけではありません。

 

自社株買いで株価が上昇する理由は?

 一方で、自社株買いを発表した後、株価が順調に上昇するケースも少なくありません。これは一体どういうことでしょうか。

 前述でお話したように、企業は自己株式を取得するための予算をあらかじめ決めているので、上値を追ってまで自己株式を取得したくはありません。ということは、他の投資家が上値を買い上げていることになります。

 企業が自社株買いを発表すると、経営者が「自社の株価は割安と判断している」というメッセージをマーケットに送ることになります。

 そのため、投資家がその株の割安さに気づき、積極的に買い上げていくことにより株価が上昇することがあります。

 また、自社株買いによりPERが低下して株価が割安になるという効果を期待して投資家が買い上がるというケースもあります。もちろん、業績向上により株価が上昇することもあるでしょう。まとめると、以下のとおりになります。

◯自己株式の取得により株価が上昇しやすくなるのは事実
◯ただし企業自身は買い上がるというよりは株価の下支えの効果
◯実際に株価が上昇するためには投資家の積極的な買いが必要
◯そのため「自己株式の取得=株価上昇」とは必ずしもならない

 自社株買いを発表した企業の株がすべて上昇するわけではありません。発表後の株価の動きを注視し、上昇トレンドになったら買うということを心掛けていれば、より効率的な投資行動がとれるのではないでしょうか。