令和の日本株式

 平成に入ったのは1989年であり、株式市場としてはバブルの総仕上げの年だった。

 当時、筆者は信託銀行に勤務していて、前年、ある経済誌に日本の株価は高過ぎるという趣旨の論考を書いていたので、さらに上昇する株価を眺めて「おかしい」と思っていた。翌1990年になると株価が急落をはじめて、この時、「やっと正しい動きが始まった」と爽快な気分になったが、自分は年金運用のファンドマネージャーをしていたので担当ファンドの価値が毎日数億円単位で失われていくのを眺めていた(対ベンチマークで評価されるので平気なはずなのだが、気持ちのいいものではない)。

 平成の大半の期間にあって、日本経済はバブルの始末に追われたことは2018年末にトウシルの特集で書いた通りだったが、「令和」の日本株式はどのような展開を見せるのだろうか。

  5月1日の改元までの間に、経済と市場に劇的な変化がないと仮定すると、新元号令和のスタート時点の日本株式は、主に以下の4つの点で平成元年の日本株式の状況と異なる。

(1)平成元年の日本株式はPER(株価収益率)で50倍を超えることもある明白な「バブル」だったが、令和元年の日本株式はPERで14倍、PBR(株価純資産倍率)で1.2倍、配当利回りで2.3%程度(いずれも加重平均。4月5日終値ベース)と「普通」のレベルだ。

(2)平成元年当時は日本の株式市場は外国市場の影響を受けながらも独自の価格形成が行われていたが、令和元年にあっては外国株価(特に米国)と為替レートの影響を強く受けるようになっている。

(3)令和元年時点の経済成長率は平成元年時点を大きく下回る。

(4)平成元年の金融政策は引き締めに向かっていて、令和元年はもうしばらく金融緩和が続くと予想される。

 上記4点について、筆者は以下のように考える。  まず、(1)株価形成が「普通」になっていることは好材料だ。

 次に、(2)米国市場の影響を強く受ける半ば新興国的な株価形成になっていることは、短期的な株価の動きに関して事実であり当面変化するとも思えないが、株価は長期的には日本企業の株主価値を反映して、上下いずれにせよ米国株とのズレが発生するはずだ。

 (3)経済成長率は現在の株価におおむね反映されているのではないか。また、(4)金融政策は向こう数年株価に逆行する「引き締め」には転じないだろう。

 こうした状況を踏まえて、令和時代の日本株を考えると、短期的には米国の経済と株価次第だと言わざるを得ない。

 他方、やや長期的には、利益の大半を配当ないし自社株買いに回す株主優先を、可能な極限まで既に進めてしまっている米国企業の株価よりも、いわゆる株主還元に余裕があって株主指向をさらに進める「余地」がある分だけ、むしろ日本の株価には上昇の余地があるのではないかと筆者は考えている。後者は、株主から見ると、企業のガバナンス改善によるリターン、言わば「ガバナンス・リターン」だが、このリターンが将来の日本株には追加的に期待できるということだ。

 現時点では、いささか逆張り的に聞こえるかも知れないが、令和の時代の日本株式に対する筆者の見通しはおおむねポジティブだ。

 高齢化、少子化、人手不足、情報産業での立ち後れなど、現状では日本の経済にもパッとした話題がないが、今後、情報化投資と省力化投資が有望であることがはっきりしているので、近い将来に意外な経済成長のポテンシャルが顕在化するのではないだろうか。「儲かる方に動く」という経済主体のインセンティブは案外信用できる。

 投資に大事な「変化の可能性」という点で見ると、令和は案外明るい時代であるように思われる。元号が変わったくらいで何かが変わると思うのは合理的ではないかも知れないが、(元号に関係なく)今後の時代の変化は希望が持てるものなのではないだろうか。