ROEの低い会社はダメなのか?

 日本企業への低評価の理由としてよく聞くのは、「ROE(自己資本利益率)が低い」「内部留保を抱え込みすぎている」「キャッシュ(正の資産)を持ち過ぎだ」といった問題だ。

 日本企業の真の問題は、おおよそ競争力につながる新しい技術やビジネスに対する投資が過小であることだろうと筆者は思っている。バブル崩壊後に、大企業の倒産を見たり、資金繰りに苦労したりした経験から、経営者が新規投資に対して消極的になっている。

 一方、これらは、配当ないし自社株買いを行って自己資本をスリムにすると改善できる問題ではある。自己資本をスリムにすると、社債保有者・銀行などから株主に企業価値の一部が移るので、この過程では株式のパフォーマンスは改善するはずだ。また、これはビジネス的な知恵が必要な問題ではなく、単なる資本政策で実現できる改善なので、特別に優秀な経営者でなくとも可能だ。

 ただし、経営の安全を指向していると、キャッシュを抱えていることが安心なので、配当や自社株買いの増加は、横並びを意識しながら、徐々に「日本的なペースで」進行することになるだろう。

 また、短期的にROEを改善するためには、上記のような資本政策に加えて、当面の利益につながらない新規投資を控え、従業員の賃金を抑え、コストカットを徹底することが有効だ。

 近年、上場企業の経営者にROEを強く意識させたことは、賃上げと新規投資との両方に対して抑制的に働いた可能性がある。経済政策としては、少々タイミングが悪かったかも知れない。

 一方、ROEが高い会社は、経営効率がいいので、投資対象として良いのかというと、そのようなことは言えない。投資の対象として好ましいのは、明らかに「現在ROEが高い企業の株式」ではなく「これからROEが上がる(可能性のある)企業の株式」ということになる。

 前者がダメなことは、例えばJPX日経インデックス400のパフォーマンスがTOPIX(東証株価指数)との比較で奮わないことを見ても明らかだろう(「予想通り!」の失敗だ)。主な理由は、ROEに平均回帰的な性質があることだが、「現在効率のいい会社」よりも「効率が改善する可能性がある現在はダメ会社」の方が投資対象としては魅力的だということになる。
 

日本株投資の未来は案外明るい?

 社外取締役は役に立たないし、IRに熱心な企業はむしろダメで、ROEが高く経営効率のいい会社が良い投資対象とはいえない、とはわれながら身も蓋もないことを言い過ぎたような気もする。

 しかし、こうした観点から長期的な日本株投資の将来を考えると、企業経営に無駄があって、非効率的で、改善の余地があるがゆえに日本株への投資は有望だと考えることができる。

 この仮説は実証された訳ではないし、実現するとしても長い時間がかかりそうだが、どの道投資は長期で行うものなので、「賭けてみる価値がある」仮説ではないかと筆者は考えている。

 この仮説から考えると、日本企業の経営効率が批判され、日本の株価が冴えないときこそが投資のチャンスだ。また、仮に米国の企業が効率的かつ株主のために経営されているとすると、彼らは「改善のポテンシャル」をすでに使ってしまったと考えることもできる。

 日本株への投資は、案外捨てた物ではないのではないだろうか。