IRに熱心な経営者はいい経営者か?

 コーポレート・ガバナンスの議論と共に、企業経営者の「株主や投資家との対話」の意義が強調されることがある。しょせん「IR(インベスター・リレーションズ)」を重視することをどう考えるべきなのだろうか。

 まず、株主や投資家に対する、経営者の情報発信の適否は、株価に大きく影響することがあるのは事実だ。経営者がIRでミスを犯した企業の株式に投資していると、真に情けない状況となる。投資家として、経営者にIRでミスは犯して欲しくないと願うのは当然だ。

 一方、IRに熱心にリソースを割く経営者はいい経営者なのだろうか?

 筆者は、IRに熱心な経営者がいい経営者だとは思わない。その理由は2つある。

  1. IRに割く時間やエネルギーを本業の経営にあてる方がいいこと
     
  2. 株主との対話が経営にプラスになるというレベルの専門性で会社を経営されるのは迷惑だ

ということの2点だ。

 1. に関しては、筆者がある外資系の運用会社に勤めていた時に、海外投資家へのIR行脚中、日本の某電機メーカーの社長とCFO(最高財務責任者)と話しながら、「この人達は、今の時間は明らかに経営に貢献していない」という印象を強く受けた個人的な経験が影響している。

 上記の気持ちは、「ファンドマネージャーとの対話」を喜ぶ年金基金や一般投資家などに対して抱く「このファンドマネージャーは、顧客との対話の最中に運用の仕事をしていない訳なのに、なぜ顧客達は対話の時間が多いことを喜ぶのだろうか?」という疑問をともなう軽い軽蔑の感情と同根だ。

 もちろん、出資者や投資家に適切な報告をすることや、経営方針等を説明することは、上場企業経営者の義務でもあるし、資金調達の円滑化を通じて経営にプラスに働く効果はあろう。IRが全く無駄だとはいわない。しかし、程度の問題であり、経営者がIRに大きなリソースを割くことには疑問を感じる。

 また、企業の本業に関して「素人」であるはずの株主や投資家との対話が、大変参考になると言う経営者の言葉が本音なのだとすると、経営者として情けない人だと思う気持ちを禁じえない。

 経営者側、株主・投資家の双方にあって、「対話」の価値の多くは自己満足であろう。株式のパフォーマンス改善に役立っているとは思えない。IRに関しては、経営者達はIRコンサルタント達の商売に乗せられ過ぎているように思う。

 もう一言つけ加えると、投資家はIRの上手い経営者を警戒すべきだ。企業を実態以上に高い価値があるかのように印象づけられている可能性があるからだ。投資判断材料としてのIRとして有効なのは、例えば、

  • IRが明らかに下手で印象の悪い会社の経営者が
  • 別の経営者に交代したり、IRが少し上手くなったりした場合に

株式への評価が改善する可能性があるというような事態への賭だろう。

「改善の余地がある」という点で、IRの印象が悪い経営者の会社こそが、良い投資対象だと考えるべきではないかということになる。