執筆:窪田真之

今日のポイント

●「FEDと戦うな」は米国の有名な相場格言で、「FEDが金融を引き締めるときは、株は買うな」の意味。米国株は、昔から金利に敏感で、引き締めが続くと調整に入ることが多い。

●米国のFRBは、早ければ9月19-20日のFOMCで資産縮小を決定する可能性がある。インフレ期待が高まらない中で引き締めを強行すると、米国株の調整につながる可能性がある。

日経平均は2万円を中心とした膠着に戻る可能性も

 米国―北朝鮮間の威嚇がエスカレートしたことを嫌気して、日経平均株価は14日、一時1万9,486円まで下落しました。その後、米国サイドから対話による解決を優先する発言が出たため「すぐ軍事衝突が起こるわけではない」とのムードが広がり、日経平均は反発しました。ただ、反発後、ふたたび上値が重くなってきています。

日経平均日足:2017年4月3日―8月16日

(注:楽天証券マーケットスピードより作成)

 上の日足チャートをご覧いただくとわかる通り、日経平均は、6月以降、2万円を挟んで狭いレンジ(赤い2本の線で挟まれた範囲)で推移していました。8月14日にいったんレンジの下へ抜けたものの、その後、反発しています。

 別の見方をすると、日経平均は5月以降、1万9,500円から2万300円のレンジ(青い2本の線で挟まれた範囲)で推移しているとも言えます。そう考えると、今回の北朝鮮情勢での波乱も、レンジ内の動きと見ることもできます。
強弱材料ががっぷり四つに組んだ状況が続いており、青い線で挟まれたレンジは簡単には上へも下へも抜けられないと考えられます。


●強材料

→ 景気・企業業績が絶好調
【参考レポート】8月15日「真夏の珍事!? 景気も企業業績も絶好調なのに株価下落」


●弱材料 

→ 2018年以降に世界景気が減速する懸念
→ FRBによる金融引き締め

今日は、上値を押さえる弱材料の1つ、米国の金融引き締めの影響について、解説します。

「FEDと戦うな」:米国の相場格言

 米国のFRB(連邦準備制度理事会)は早ければ9月にも、保有資産の縮小を決める可能性があります。具体的には米国債の保有を減らすことで、長期金利の上昇を促そうとするものです。ただ、インフレ期待が高まらない中で強引に長期金利を上昇させようとすると、米国株が下がる要因となります。9月19-20日のFOMC(連邦公開市場委員会)で、どのような決定がされるか、注目されます。


 ここで思い起こされるのが、米国で有名な相場格言「Don‘t Fight the FED!:FED【注】と戦うな」です。米国株は、昔から金利に敏感で、「FEDが引き締める時、株は買うな」の格言が生きています。

【注】FED:"Fed"eral Reserve Board = FRBのこと。米国の金融政策を決める中央銀行。

 アベノミクスが始まって以来、NYダウは、金融引き締めにつながる話に、敏感に反応してきました。「米国で金融引き締めの話が出る→NYダウが下がる→日経平均がNYダウを上回る大幅な下げになる」というパターンを何回も繰り返してきました。それを、以下のチャートで確認します。

日経平均とNYダウの動き比較:2012年末―2017年8月16日

(注:2012年末を100として指数化、楽天証券経済研究所が作成)

 日経平均が下げた局面を、青矢印で示しています。そこに、米国の金融引き締めの話しがなんらかの形で関与しています。左から順に青矢印の部分を説明します。

●2013年5月:バーナンキ・ショック。バーナンキ元FRB議長が「将来、金融緩和が必要になる」と発言しただけで、NYダウが下げ、つれて日経平均および世界中の株が急落。
●2014年1月:新任のイエレンFRB議長のもとで、テーパリング(金融緩和の縮小)を開始。世界的に株が下落(株が下がった理由は、ほかにもあるが、ここでは、米国の金融政策の話だけに焦点を当てる)。
●2014年10月:テーパリング完了。つまり、ここで米国の量的金融緩和が終了。緩和終了への不安、その他の複合要因で世界的に株が下落。
●2015年後半―2016年前半:2016年12月にFRBが利上げ実施。ゼロ金利終了。
●2017年4月:FRBが2016年12月に利上げを実施。さらに2017年3月・6月にも利上げ。

9月19-20日のFOMCに注目

 イエレンFRB議長は、早ければ9月にも保有資産(米国債)の縮小を決定し、10月にも開始することを示唆しています。FRBの示唆通りのペースで資産縮小を実行すれば、米国の長期金利に上昇圧力がかかります。そうなると、「FEDと戦うな」の格言通り、米国株の下落リスクが高まります。

 米国株はこれまで、FRBが利上げを続けていることを無視する形で上昇を続けてきました。米国景気好調を評価しつつ、金利上昇は無視の「いいとこ取り」で、上昇が続いていることに、危うさを感じる向きがありました。

 米国の株式市場は、FRBが無理な引き締めをやらないことを前提に、平穏を保っています。ただ、9月のFOMCが近づくにつれ、さまざまな思惑が出て、市場が乱高下する可能性もあります。9月にかけて、米国の金融政策についての思惑に注意が必要と思います。